Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

『ゴールデン・スランバー』(2)〜映画としての完成度

(前日エントリから続く)
映画として、とにかく驚くのは伏線回収率の高さ。
伏線というよりは、演出小物への愛着というか、間を空けて「さっき言ってたな」というエピソードが出てくる出てくる。ここまで徹底されると、もはや偏執的で笑ってしまう。

  • 連続通り魔事件のポスター
  • 晴子一家が遭遇したエレベータでの出来事
  • 芸能人ご用達の仙台の整形外科の噂
  • しつこく出てくるiPod
  • 花火の轟屋の跡取り問題
  • 仙台市の下水道の話
  • 「たいへんよくできましたの花丸」と普通の「丸」
  • 青柳が書道の宿題で父親に書かされた言葉
  • 宅配会社先輩の浮気告白
  • ハーレーダビッドソンのジャンパー
  • 学生時代に「使って」いた放置自動車
  • その車(カローラ)のCMソング


一方で、今回の事件の全体見取り図は、結局最後まで示されない。誰が裏で操って「オズワルド」を作り出そうとしていたのか、という事件の根幹部分については、触れられない。
このことは、物語全体の熱を冷めさせない上手い仕掛けだといえる。見ている側とすれば、「スカッ」とするのは、事件の謎が明らかになり、悪い奴が裁かれる物語だが、それをやれば陳腐になるのは目に見えている。逃亡劇が実質的に2日間というコンパクトなものになっており、猛スピードで話が進むのだから、そこは見えなくて当然だ。
むしろ、物語は、事件を、青柳にとって「解決すべき使命」というよりは「避けがたい運命」のように描いており、運命という人智を超えた大きなものに翻弄される様がメインに描かれる。
どうも、自分が伊坂幸太郎作品に、イマイチ馴染めなかった理由は、そこと関連しているようだ。『終末のフール』なんかは典型的だが、生じた出来事の背景にこだわると物語が拍子抜けで終わってしまう。そうではなく、あくまでも多くの登場人物による群像劇を、登場人物に着目しながら眺めることが、伊坂作品では重要なのだろう。


なお、そういった細かい伏線もありながら、映画自体は非常に分かりやすく作られている。特にクライマックスの分かりやすさは感動的だ。あそこで上がる花火を見て、人との繋がり、そして信頼の大切さを感じない人間はいない。作品のテーマがクライマックスシーンで、映像とともにピークに達している。(なお、森田の言葉を借りれば「人間の最大の武器は、習慣と信頼」とのことだが、「習慣」の部分の重要さについては、映画からでは、あまりよく分からなかった。)


最後になってしまうが、キャストの素晴らしさ。
まず主役の青柳を演じる堺雅人
特に冒頭の頼りない感じ(ウッチャンに見えること多数)から、強い言葉を発するシーンまで、性格に幅があるが、ちゃんと(堺雅人以外の)一人の人間として一貫している感じには、役者さんってやっぱり凄いんだなと思わされた。*1
そして、準主役の晴子を演じる竹内結子*2バツイチ子持ち、今年30歳とは到底思えない可愛さ。そして凛々しさ。自分自身、テレビドラマを殆ど見ないこともあり、これまで全くノーマークだったが、一気にやられてしまった。
その他、悪役(警察)で印象に残るのは、香川照之も良かったが、それ以上に永島敏行。この人台詞ないのに存在感が凄過ぎ。
相武紗季は物凄く可愛かったけど、ほとんど登場せず残念でした。


アニメ以外で映画を通して見たのは、数年ぶりになってしまうかもしれないが、とにかく、映画って面白いと思わせてくれた作品だった。
これを機に、仙台を舞台にした伊坂作品2作品と、竹内結子出演映画は追っかけて行きたい。というか伊坂幸太郎の小説をもう少し読むのが先か。→伊坂作品オススメがありましたら教えて下さい。(既読は『終末のフール』『オーデュポンの祈り』『ラッシュライフ』)

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*1:ちなみに、テレビブロス五月女ケイ子の質問コーナーが2週連続で「どうして堺雅人はあんな表情なの?」という内容だったが、あの表情あってこその堺雅人。もはやあれが無いと中毒症状が起きかねない。

*2:今、Wikipedia見て知りましたが、竹内結子は浦和の白幡中学出身なんですね。親近感!!