Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

全てが軽やかな14歳〜石田衣良『4TEEN』

4TEEN (新潮文庫)

4TEEN (新潮文庫)

石田衣良を読むのは何年ぶりだろうか。池袋ウエストゲートパーク関連を3冊くらい読んで、とても満足度が高かった覚えがある。その後、人気者になり、メディア露出が増えて、何だかなあ、と思ったときもあったが、その悪いイメージも払しょくしてほしいと思い、直木賞受賞作を手に取った。(本当は、図書館で物色していてたまたま見つけた)


8個の短編それぞれで中学二年生の男子生徒4人が直面するのは、難病、売春、拒食症、いじめ、不倫、DV、同性愛、アルコール依存症、父親の死、虐待、妊娠…と重々しいテーマばかり。おそらく、この本への一番多い批判は、これらのテーマを軽く扱い過ぎだ、というものだと思う。*1自分もその意見には半ば同意する。しかし、それは大人的感性で考えた場合であって、小説内にどっぷり浸かると、次々に起きる事件を、これくらい軽く考えることが、登場人物ら4人の感覚として正解だと感じる。
一時期、酒鬼薔薇事件や、エヴァンゲリオンに絡めて14歳が騒がれたときには、14歳という年齢は、危険な年齢として捉えられていた気がするけれど、この小説ではむしろ前向きを通り越して脳天気な感じだ。
自分を考えても14歳の頃は、何故か部活をやめて新聞配達のアルバイトを始める等、今考えるとどうしても意味不明な行動に出たりして、深く考えずにいろいろなことが出来ていたように思う。だから、読んだ人にとっての14歳的感性と合えば、とても面白く読める小説だ。そして、この小説の「軽さ」と、8つの短編を通して登場する自転車という乗り物は相性がいい。巻末のあとがきで書かれているように、自転車の持つ「あのスピード感と明るさと吹き抜ける風」こそが、石田衣良の“14歳”観なのだろうし、自分も共感できる。

ぼくが怖いのは、変わることだ。みんなが変わってしまって、今日ここにこうして四人でいるときの気もちを、いつか忘れてしまうことなんだ。ぼくたちはみんな年を取り、大人になっていくだろう。世のなかにでて、あれこれねじ曲げられて、こうしていることをバカにするときがくるのかもしれない。あれは中学生の遊びだった。なにも知らないガキだった。でも、そんなときこそ、今の気もちを思いだそう。変わっていいことがあれば、変わらないほうがいいことだってある。
(略)
今から何年かして、自分がだめになりそうになったら、今日のことを思いだすようにしよう。あのときすごくいいやつらが四人いた。自分だって人生の最高のときには、あのメンバーにはいれるくらい絶好調だったって。今の弱さや不安を忘れないようにしよう。そうしたらきっと…
(略)
それができたら、どんな悪いことにもなんとか耐えられる。なんとか生き延びて、悪い時期を我慢できるなら、もうゲームなんて勝ったも同然さ。
(p318テツロー)

こういう14歳っぽい名言に感動する。というか微笑ましく思う。結構良い本。

補足

続編もあるんですね。

6TEEN

6TEEN

ドラマ版も見てみたい。
4TEEN スペシャル・エディション [DVD]

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*1:同じく重いテーマを軽く扱って見せたのが、やはり直木賞作品の奥田英朗空中ブランコ』。アプローチの仕方は全く異なるが…。