iPS細胞とはなにか―万能細胞研究の現在 (ブルーバックス)
- 作者: 朝日新聞大阪本社科学医療グループ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2011/08/19
- メディア: 新書
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第一章「山中伸弥ストーリー」では、iPS細胞研究の第一人者である京都大学山中伸弥教授の足跡を辿る。整形外科から研究の道に入り直したエピソードは面白いだけでなく、自らの使命を誠実に考えている様がうかがえる。ラストの第10章にも山中教授のインタビュー記事を載せながらも、全体を通して山中教授成功譚のようにならないのは、iPS細胞をはじめとする万能細胞研究の争いの熾烈な状況が現在も進行中であるからに他ならない。頻繁に報じられる再生医療のニュースの意味についていくためにも、とても有用な本だった。
以下は内容のメモ。
iPS細胞(人工多能性幹細胞)とは
幹細胞とは
- ヒトの体を形成する約60兆個の細胞も、元を辿ればたった1個の受精卵
- 細胞が分化(目的に合った形や機能をもつように変化していくこと)することにより、あらゆる細胞や臓器がつくられる
- ふつうは、いったん分化した細胞(体細胞)は、さらに分化しない(心臓の細胞は肝臓の細胞に変化しない)→時計の針を巻き戻せない
- 「自分自身」と「他の細胞に変化する細胞」に分裂する細胞を「幹細胞」という。ヒトにはほんの少数しかない。(赤血球や白血球をつくる造血幹細胞など)
- 体内のどんな細胞でもなれる幹細胞を「多能性幹細胞」といい、プラナリアにはこれがあるため再生が可能。ヒトの体内にはない。
ES細胞
- ヒトの受精卵からつくった多能性幹細胞
- 胚(受精卵が分裂をはじめて胎児になるまでの、細胞の塊の状態)の内部の細胞を取り出して培養してつくる
- 受精卵を壊してつくるため、倫理的な問題がある
- 患者にとっては「他人」の細胞であるため拒絶反応の心配
初期化(リプログラム)
- 時計の針を巻き戻すこと
- ふつうは、これ以上分化しないはずの体細胞を、万能性を持つ受精卵のような細胞にする
- クローン羊ドリー(1996年誕生)は、メスの体細胞(乳腺の細胞)を、別のメスの(核を除いた)卵子に移植することで初期化し、同一の遺伝子を持つ別の羊(クローン)を生みだしたもの
- iPS細胞は、体細胞に4つの遺伝子を導入することで初期化できる。
ES細胞やクローンの倫理的な問題
iPS細胞の利用方法
- 難しい病気の患者のiPS細胞を作ることによって病気の仕組みを探る
- 薬の開発・薬の毒性調査に使う
- 細胞移植には「がん化」という課題がつきまとう(80年代の遺伝子治療の苦い経験)
iPSバンク
- あらかじめ安全性を確認したiPS細胞を用意し治療に使う計画
- 安全面、コスト面でのメリットがある
- 他人の細胞を移植することになるので拒絶反応が問題になる
- ただし、HLAと呼ばれる白血球の型を50種類集めておけば日本人の9割をカバーできるという試算もある(P127)