Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

抑えがたい憎しみのエネルギー〜手塚治虫『ブッダ』(9)

ブッダ 9 (潮漫画文庫)

ブッダ 9 (潮漫画文庫)

米大統領選で共和党候補指名を争う5氏によるテレビ討論会が16日、南部サウスカロライナ州で開かれた。
21日に予備選が行われる同州は保守的な共和党支持者が多いとされ、候補の多くが安全保障問題でタカ派の主張を繰り広げた。
アフガニスタンの旧支配勢力タリバンの最高指導者オマル師がパキスタンに潜伏していた場合の対応を問われ、ミット・ロムニーマサチューセッツ州知事(64)は、「タリバンは米国人を殺している。我々は世界中のどこにでも行き、彼らを殺す」と主張した。
 ニュート・ギングリッチ元下院議長(68)は、サウスカロライナ州と縁が深い第7代のジャクソン大統領に触れ、「13歳で独立戦争を戦った彼は、米国の敵について明快な考えを持っていた。『殺せ』ということだ」と言い切り、会場から大きな拍手がわいた。


悪魔の申し子で、これまで200人以上の殺人を犯した大悪党アナンダは、ブッダによって死の淵から救い出され、悪魔を追い払い、ブッダの弟子になります。
初めはブッダの足元を掬おうとしていたカッサパの三兄弟も、ブッダの教えに共感し、ブッダはいよいよ1000人以上の大人数の僧侶を率いることになります。
しかし、アヒンサー(アングリマーラ)は、ブッダの説得に屈しません。あるバラモンに酷い仕打ちを受け「世界一えらい坊主をこの手で殺すこと」を夢と語るアヒンサーは、ブッダの言葉にやや傾くことはあっても、憎しみの心を消すことはできなかったのです。
復讐心や憎しみという行動原理は、この物語の中では、重要なカギとなっていて*1、ルリ王子もシャカ族への復讐心、アジャセ王子も父への復讐心を持ち続けます。ブッダの弟子となったタッタも、やはりコーサラ国への復讐心を消せずにいます。結局ミゲーラの恩人という理由でブッダにしたがっていた部分が大きく、一番近しい人でもブッダの望むように変わることはなかったのです。したがって、理屈で憎しみの心を消すのは非常に難しいと思わせるストーリー運びになっています。11巻でブッダはルリ王子の復讐心をなくすことに一旦成功しますが、これもブッダの言葉が心に響いたこと以上に、(これまで殺してきたシャカ族の人間への)自責の念が強く働いたように思います。
憎しみの復讐の連鎖こそが、今も世界各地で続く紛争の根本にあるものなので、11巻で省略されているルリ王子との対話については、もう少し知りたいと思いました。


また、カッサパ兄弟を説得するにあたって2つの喩え話を使って以下の説明をしますが、これは自分にとっては、やや呑み込みにくいものです。

人間の心は ほしいもののために いつも燃えている!
そうすると そのために 泣いたり怒ったり悩んだりする
それは消すことができる!
目をつむるように心を閉じるのだ
…そうすれば…
そうすれば迷いや悩みもなくなって
かえって苦しみがとれ おまけに この自然にとけこむことができるのです!
p196

確かに、時代を問わず多くの人が苦しみをなくしたいと考えていますが、そのために「心を閉じる」=欲望の火を消すことを選ぶ人がどれだけいるのでしょうか。そういう考えこそが資本主義に毒されているのだと言われればそれまでですが、正しい行いをすることによって報われるという因果の話などと比べると、素直に受け入れ難い言葉の一つです。
ブッダの教えには、普通の人が日々の生活の中で取り入れやすいものと、修行中の僧侶にしか響かないものとの二つが混在しているのかもしれません。そこら辺はこのシリーズ以外のものを読んでみて確認したいなあと思っています。

ブッダの人と思想 (NHKブックス)

ブッダの人と思想 (NHKブックス)

ブッダのことば―スッタニパータ (岩波文庫)

ブッダのことば―スッタニパータ (岩波文庫)

心がスーッとなるブッダの言葉 (成美文庫)

心がスーッとなるブッダの言葉 (成美文庫)

リトル・ブッダ 【HDマスター】 [DVD]

リトル・ブッダ 【HDマスター】 [DVD]

*1:8巻の解説で、夏目房之介がもう少し別の観点から同様の指摘をしています