Yondaful Days!

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児童書でも素晴らしい入門編〜渡辺仙州『西遊記』(上・中・下)

西遊記〈上〉悟空誕生の巻

西遊記〈上〉悟空誕生の巻

西遊記〈中〉破邪遍歴の巻

西遊記〈中〉破邪遍歴の巻

西遊記〈下〉西天取経の巻

西遊記〈下〉西天取経の巻

よう太向けに図書館で借りてきたものですが、かなりの高評価だったので、自分でも読んでみたら、上中下巻3冊をあっという間に読んでしまうほど熱中しました。
そもそも西遊記について、一番強いイメージを与えたのは、堺雅章主演のドラマ以上にこちら↓。

志村けん孫悟空いかりや長介三蔵法師猪八戒高木ブー沙悟浄=中本工事ときて、加トちゃんだけは腹巻ステテコとハゲヅラちょび髭のおやじとして登場するオリジナル人形劇。ピンクレディーが番組の進行役を務めていたのも印象的で、主題歌は今も覚えています。


そんないい加減な知識で読んだこの本は、時代を超えたエンタテインメント活劇である西遊記を楽しめるだけでなく、背景にある中国文化についても学ぶことのできる、とても素晴らしい本でした。
作者は、自分と同年代の渡辺仙州さん。解説を読むと、母親が中国の方であり、中国での生活体験(この本で言えば、中国で見た現地のドラマの西遊記)から、このような本を多数出しているようです。*1


特筆すべきは読みやすさ。
表紙だけでも十分に魅力的ですが、中身を開いてみると、新たな(久しぶりの)登場人物が出るたびに、佐竹美保さんによるキャラクター(とその武器)の挿絵が“脚注”的に登場するため、見慣れない人物名の頻出によるストレスはほとんどありませんでした。
また、巻末の解説に詳しいですが、日本ではカッパとして描かれることの多い沙悟浄(沙和尚)は、実際には筋骨隆々の僧侶であるなど、日本人的な先入観を取り除くにも、この挿絵が役に立ちました。


↓通常の挿絵(沙和尚)


↓登場人物紹介(1)


↓登場人物紹介(2)萌えキャラクターの哪吒(なた)※少女に見えるが少年


上中下巻ですが、三蔵法師が登場するのは上巻の後半。孫悟空は、誕生から数百年暴れ回ったのち釈迦如来に動きを封じられ、三蔵に出会うまで五百年も岩の下にいました。
その後、順に、上巻で白竜(通常時は白馬の恰好)と出会い、その後、猪八戒沙悟浄と全メンバーが揃うのは中巻のp48になってやっとということになります。なお、猪八戒の「八戒」は「五葷三厭」(ごくんさんえん:五葷は、ニンニク・ラッキョウ・ニラなどくさみのある五種の野菜、三厭は雁・犬・魚の肉)のなまぐさを断つことを意味するとのことです。


今回初めて知ったのは、三蔵が天竺を目指したのは、大乗仏教を学ぶためだという基本的な目的の部分。それまで学んでいた小乗仏教では多くの民衆を救うことは出来ず、一方で大乗仏教は解釈がまちまちで教典の決定版に欠けていると感じていたのが天竺を目指すきっかけとなったようです。


その後、「邪心を持たぬ聖僧の肉を食べれば不老長寿が得られる」という噂もあって、三蔵自体が妖魔に狙われ、さまざまな試練を受けます。時と場合によっては、観音菩薩や釈迦如来から助けてもらうことがあるのですが、こういった危険に満ちた旅自体が彼らのコントロール下にあることも、変わっていると感じた部分です。実際、天竺にある雷音寺で、釈迦如来が教典を授けたあと、このようなやり取りがあり、驚きました。

三蔵たちが雷音寺を去ったのち、釈迦如来観音菩薩にたずねた。
観音菩薩よ。三蔵のうけた苦難の数は、八十一に達したか?」
「そうですね・・・」
観音菩薩は、指を折ってかぞえる。
「・・・七十八、七十九、八十。あと一難、たりません。」
下巻p197

で、帰り道で、律儀に最後の一難を与えるのだから、この人たちの役人的な気質は何なのだろう(笑)と思ってしまいます。


なお、巻末には、著者による西遊記全体の解説と、道教についての解説があり、これもとても分かりやすかったです。特に、、中国の民間信仰においても、外部のものを吸収して、独自の形に作り込んでしまうという部分は、日本との共通性を感じました。
重複する登場人物も多く、歴史背景的にも近い時代に成立した『封神演義』も、この本と同じく渡辺仙州×佐竹美保コンビによる本があるようなので、こちらにもチャレンジしてみようと思います。

封神演義〈上〉妖姫乱国の巻

封神演義〈上〉妖姫乱国の巻

封神演義〈中〉仙人大戦の巻

封神演義〈中〉仙人大戦の巻

封神演義〈下〉降魔封神の巻

封神演義〈下〉降魔封神の巻

*1:中国文学の研究者なのかと思っていたが、巻末を見ても、工学部の博士課程という、中国文学と無関係の略歴。