Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

岡本太郎『今日の芸術』★★★★★

1954年発表ということがまず驚き。発表から50年経た今読んでも、全く古びない。心をつかまれる感覚。昨年末に買ったときは、一緒に買った乙一があまりに面白すぎて、こちらは最後まで読めなかったが、今読み返し、読了して感無量。なんともすごい本だ。
もともと、田島貴男が、異常に岡本太郎への心酔を見せていたのが太郎と出会うきっかけだった。オリジナル・ラヴの11枚目のアルバム『踊る太陽』のインタビューは、どれも岡本太郎への想いを語っているものばかり。(結局、田島は、岡本太郎の文庫復刊『心の中に毒を持て』の帯推薦文まで書いてしまうほどで、現在もブームが続いているようだ。)
田島貴男がそこまで熱くなれる岡本太郎の書とは如何なるものか?好奇心に駆られた僕は、本屋でこの本を見つけて、迷わず手に取った。文庫だしね。

のっけからすごい。引用しだすと止まらないんだけど、まず最初に太郎は、さまざまな娯楽施設やスポーツ観戦は「ほんとうの意味のレクリエーション、つまりエネルギーの蓄積、再生産としてのレクリエーション」ではない。楽しめば楽しむほど、「自分」不在の空しさは、心の底にたまってきてしまう、と語る。そこに、「芸術」が登場する。現代社会で、自己疎外の毒に蝕まれた僕たちにこそ「芸術」が必要なのだ。
(読んで気付いたが、この冒頭部分は、福本伸行のマンガ『最強伝説黒沢』と全く同じ)
そして、途中までは、芸術とは何か?どうあるべきか?という話題が続くのだが、中盤から、「誰もが」「芸術を」「今」「始めることが出来る」ということが繰り返し語られる。読者は、本を読む中で「芸術」を自らの問題として、考え始める。そして、当時岡本太郎が提示して見せた日本の問題点は、今も全く変わらぬままだ。しかし、それを嘆くのではなく、自分が解決して行く、決意を持って、全てのことに当たらなくてはならないという、非常にポジティブなメッセージがこの本全体を包んでいる。島本和彦逆境ナイン*1で言えば「やる気パルス」に溢れる素晴らしい本だ。

ただ、一方で、これから先に待っているのは、「終わりなき日常」の世界であり、その中で僕らは、「まったり」生きていくことが必要だと唱える宮台真司の主張もよくわかる。伝統的なものに捉われず、常に過去のものを打ち破って新しいものを生み出していく姿勢が必要と唱える太郎の言葉とは相反する気がする。
両者の主張が融合できるものなのかどうかは、これから岡本太郎宮台真司を交互に読んでいけば、自分にも分かってくるかもしれない。

ところで、『蛇にピアス』を少しだけ読んだけど、宮台真司岡本太郎の観点で読書感想を書いてみたい。読了したら書きます。

*1:「たかが100点差!というものすごい名台詞が登場する熱血野球漫画。現在入手困難だというが、このマンガこそなぜ文庫で入手できるのようにしないのか?