Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

中村靖彦『狂牛病−人類への警鐘−』★★★★(半分減らしておきます)

先日の読書感想の続きです。意見が大きく変わっています。

『狂牛病』先日の感想

先日の読書感想文を書いた後で、amazonの書評を見てみると、結構きつい意見があった。

期待して購入してみたものの、文章中、事実と科学的な予想や学説、それに著者の主張などが混在しているため、何が事実で、世界ではどのようなことが考えられるのか?といった肝心の事がさっぱり分からず、ただ「怖い」「政府の対応が悪い」という印象だけが頭に残るだけで、正直期待はずれの内容だった。
また、感染についても非定量的な記載が目立つなど、著者の不勉強ぶりも残念だ。他にも、後半で「共食いがいけない」との主張が展開されている記載など、疑問を感じた個所も多々としてある。粗雑に「モラル」とか「自然の摂理」などというあいまいな言葉で指摘して事足れりとする著者の姿勢には、事実に対する謙虚さが感じられない。

先日の文章では絶賛しておいてなんだが、この意見には、うなずかざるを得ない。
ここ最近の個人的な読書のテーマとして、大きな柱の一つに、「科学的な判断」とでも言うべきものがある。特に、ブログの世界で、新聞やテレビの報道を斜めに見る癖のついた最近では、逆に、何が正解なのかわからなくなることが増えた。それが、日本の政治、経済、外交などなら、意見の食い違いがあるのが必然というのはわかる。しかし、科学的な(科学的に見える)事象についても、それぞれに確からしい全く違った意見が並立するものがある。例えばCO2問題、プルサーマル、そして狂牛病の全頭検査の問題。
ところで世の中の流れとして、知的好奇心に訴えかけるような、わかりやすい「科学的な」説明がテレビなどでも増えてきたように思う。例えば、ここ数ヶ月見ていないが、「あるある大事典」のように、細胞や酵素の働きを漫画的、演劇的に説明する番組だ。この種の番組は、わかった気になるので、結構好きなのだが、真実よりも「わかった気」の方が優先されてしまうときがあるように感じる。特に同種の番組で多く取り上げられる栄養素の働きについては、一つの栄養素(食材)をピックアップしすぎるために、実際には大事なはずの複雑な部分が切り捨てられていると思う。先日見た番組では、「豚肉を合わせて食べれば、どんなに食べても太らない」というような豚肉=神みたいな取り上げられ方をしていた。*1
そういう中で僕が思うのは、結局、自ら学ぶ努力をしなければ、正しいことはわからないのだろうということだ。一部のテレビ番組は、とにかく視聴者に楽をさせようと執心しているよう*2だが、それに逆らって、自ら学ぼうとする努力が必要だということだ。
そんな中で見た今回の『狂牛病』を振り返ると、確かに「わかりやすかった」。しかし、例えばストーリーの中で核になっている「共食い」についての取り上げ方は全く科学的でなく、作者の直感のみによる記述である。そういった部分で、「科学的であること」よりも「わかりやすさ」を取った本という言い方が出来るかもしれない。入門としては、狂牛病の基礎がわかる良い本だと思うが、必要以上に不安感を煽っている点が、やはり問題だ。それについては、作者も気にしているのか、あとがきで、わざわざ「恐怖や心配をあおるつもりは毛頭ない」と断っている。読む側も作者の意図以上に煽られないよう、慎重に「科学的な判断」できる能力が求められているのかもしれない。
以下、狂牛病の基礎知識。

  • イギリスはEUの中で最も多く羊を飼育している。(76)
  • 1985年。イギリスで、狂牛病による牛の死亡が発見される。(18)
  • 狂牛病の潜伏期間は2〜10年ほど。日本以外の国が全頭検査を取らないのは、潜伏期間が長いため。また、肉牛よりも飼育期間の長い乳牛の方が発病例が多い。(30)
  • 狂牛病の初めの感染は、スクレイピーにかかった羊の肉骨粉(動物性飼料)によるものと考えられる。動物性飼料自体は昔から使っていたが、狂牛病が1985年になるまで発見されなかったのは、以下の事情による。つまり、オイルショック後に、エネルギー節約のために、煮沸処理の温度を下げたことが原因で、それまではほとんど残らなかったプリオンが多く残るようになったためである。(35)
  • スクレイピー自体は人間に感染しないといわれている。(32)
  • 例に挙げられたクレアさんは、1985年(11歳)から菜食主義者で、肉を口に入れていなかったにもかかわらず、22歳で発症した。(潜伏期間11年)(104)
  • フランスでは脳も含めて牛の内臓をよく食べる(135)
  • CJD(クロイツフェルト・ヤコブ病)自体は世界中のどこにでもある病気である(22)が、日本では、脳の硬膜移植で病にかかった方が1000人以上いる。(薬害ヤコブ)(206)
  • 牛のBSEに感染したと思われる人間の病気をvCJD(変異型のクロイツフェルト・ヤコブ病)と呼ぶ。(26)
  • 狂牛病の病原体はウイルスではなく、プリオンという蛋白質であるが、非常に強く、なかなか死なない。

ところで、屠畜についての記述の中で、鎌田慧『ドキュメント屠場』が取り上げられていた。(122)ちょうど読もうと思っていた本なので、今度読もうと思う。

*1:爆笑問題とアニメの猿が出る番組。いい加減に見ていたので、理解もいい加減かもしれない。

*2:お笑い番組のネタに字幕がでるくらいだもの。