Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

三浦展監修『検証・地方がヘンだ!』(ムック)★★★★

検証・地方がヘンだ!―地方がファスト風土化し、液状化している! (洋泉社MOOK―シリーズStartLine)
夏に仙台に遊びに来た友人らに、松島に行くまでの車からの風景を「千葉と全く同じだ。」とからかわれた。実際そうだ。パチンコ、ファミレス、ジーンズ、ブックオフが、5kmおきくらいで繰り返し現れる風景は、情緒のかけらもない、退屈なものだ。
この本では、そういった地方の変化を「ファスト風土化」と称し、凶悪犯罪事件や階層格差の問題と絡めて書いてある。やや牽強付会で煽るような部分もあり、特に冒頭の「地方で多発する凶悪事件」の分析は強引すぎるが、地域の深刻な問題を考えるとっかかりにはよい本だった。なお、本屋では、2004年9月に同じ洋泉社から出ている『ファスト風土化する日本』と並べておかれていたが、コチラのムックでは、鈴木浩、松原隆一郎山田昌弘永山彦三郎など著名な人へのインタビューがついており、お得感がある。

ファスト風土化は、作者の造語で、「ファストフード」と「風土」をかけただじゃれ。郊外の発展が、地方の風景を壊していくさまを示した言葉だが、その発端として以下のような現象がある。

  • 郊外の発展(大型ショッピングセンターの出店)
  • それに伴う中心市街地の空洞化(商店街のシャッター通り化)

昨年末に永江朗『不良のための読書術』で取り上げられていた、大型店舗の進出による「街の本屋」の没落の話とも重なるところが多いし、効率化、利益重視が人間性を奪っていくという観点では、以前取り上げた「私がディスクユニオンを辞めたわけ」にも重なる。僕にとっては、非常にキャッチーな話題だ。
先日、2月までの期限付きで会社に来ている研修中の学生*1が「実家では、内鍵はあるけど、外からはかけないので、留守のときにかける「鍵」という概念が無い。周りの家も同じだ」と言うのを聞いて、都会っ子の自分としてはびっくりしたのだが、そういうことが可能なのは、周りが見知った人達だからだ。作者が郊外の発展によって、地方に犯罪が増えているとする理由は、交通アクセスがよくなることによって、犯罪を起こすような人まで呼び込んでしまうからだ。この本の言葉を使って言えば、以下の通り。

  • 道路整備(高速道路、バイパス)と車社会の負の側面
  • 界隈性、地域の一体性を崩す人の流動化、匿名化

つまり、「車社会は街をつくらない」というのが、作者の芯にある主張の一つだ。文房具一つ買うにしても、親の運転する車に乗って郊外のショッピングセンターに行くしかない郊外の子どもには社会性が育たないのではないか、という危惧はよくわかる。これに対して、移動手段の整備と市街地の整備が一体になった鉄道を中心とした発展であれば、まだましだというのも想像が出来る。
また、車社会とは別の視点から、郊外のニュータウンについての問題点が挙げられている。すなわち、ニュータウンでは、次の世代への継承がうまくいかず、高齢化が進むと没落してしまう一方になる、という点が一つ。(P90)もう一つは、地方の文化が無くなっていくということ。(P91)福島大学・鈴木浩教授の言葉を使えば以下のように表される。

ファスト風土化」を助長した要因として、本書では以下のような政治的な流れが挙げられている。確か、日米構造協議については、宮台慎治も同様のことを指摘していたような覚えがある。

 
こういった「ファスト風土化」の流れに対して、どのような対策を取ることができるかについては、著名人のインタビューの中でヒントがいくつか挙げられている。

詳しく説明はしないが、妙案というものは無いもので、特効薬は当然ない。相当に根の深い問題なので、為政者だけでなく、住民側の意識改革も必要となってくる話だ。これについては、今のところ、絶望的な側面ばかり見えてしまう。それぞれの人の話には興味を持ったので、機会をつくって各著作にあたりたい。

鈴木浩『街をよみがえらせた知恵と手法』
松原隆一郎『失われた景観』『消費者資本主義のゆくえ』
永山彦三郎『学校解体新書』『サーフィン型学校が子どもを救う』

また、「希望格差社会の厳しい現実」と題された山田昌弘へのインタビューもあったのだが、この人については、実際に本を読んで見ようという気になっているので、ここでは省く。これまた怖い話。
それにしても暗くなる。

今年の夏オレ全身JUSCO!!
今年の夏オレ毎日JUSCO!!

なんて歌うグループ魂「JUST A JUSCO」(『荒ぶる日本の魂たち』)も笑えなくなってくる。

*1:土木系の学部には、在学中に会社でアルバイトをして単位を取る制度がある学校が結構ある。