Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

池澤夏樹『スティル・ライフ』★★★★☆

スティル・ライフ (中公文庫)

この世界がきみのために存在すると思ってはいけない。世界はきみを入れる容器ではない。
世界ときみは、二本の木が並んで立つように、どちらも寄りかかることなく、それぞれまっすぐに立っている。
きみは自分のそばに世界という立派な木があることを知っている。それを喜んでいる。世界の方はあまりきみのことを考えていないかもしれない。
 
でも、外に立つ世界とは別に、きみの中にも、一つの世界がある。きみは自分の内部の広大な薄明の世界を想像してみることができる。きみの意識は二つの世界の境界の上にいる。
大事なのは、山脈や、人や、染色工場や、セミ時雨などからなる外の世界と、きみの中にある広い世界との間に連絡をつけること、一歩の距離をおいて並び立つ二つの世界の呼応と調和をはかることだ。
たとえば、星を見るとかして。

まずは、思わず引き込まれる冒頭の文章を引用。
 
ずっと前のことだが、夏目漱石『それから』が非常に読みにくいのにしびれを切らして、衝動的に本屋で購入し、『それから』の合間に読んだ本。小説の感想文を書くのには苦手意識があるので長らく放置していたが、ふと書く気になり、再度読み返してみた。
斜め読みで追ってみると、記憶していたよりもずうっと良い作品。言うならば「懐の深い作品」。初読時とは違って、ここ一ヶ月くらいで読んだ本の内容がそのまま投影されて、すごく僕個人としてのシンクロ率が高い作品になった。つまり、読者のいろいろな読み方を許容できる「懐の深い作品」だと感じた。
たとえば、冒頭の文章をはじめとして、星や雲、宇宙などに関する記述は、先日書いたレイチェル・カーソンラッセルに通じる部分がある。また、世界の捉え方自体は、『7つの習慣』の「影響の輪」「関心の輪」を思い起こさせる。繰り返される「俯瞰」の視点はGoogle Mapsを連想させる。そういえば、はじめは、読みながら、同じ芥川賞を取った奥泉光『石の来歴』を思い出していた。
文字の密度も少ないし、さらっと読めるが、読んでいる途中で結構自分の心の中が揺れ動く作品。何というか、この小説独特の不思議な感覚だ。
カップリング?の「ヤー・チャイカ」もユニークな作品。二つ合わせて、矢張り小説家ってすごいなあと唸らせるような作品だった。
 
さて、ここまで触れなかったが、実は、この本は、ときどき日記を読ませて頂いているkubokeさんの感想文*1を見て、読もうと思った作品。飛んでもらえばわかるが、冒頭の文章を引用するやり方は、kubokeさんをパクリました。ただ、文庫巻末の解説も同様に冒頭の文章を引用しているから、それだけ素晴らしい文章ということだと思う。
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ところで、kubokeさんは、学生時代にいろいろと勉強させて頂いたビーチボーイズのファンサイト*2の管理者の方です。何というか、ビーチボーイズに関しては、バンドそのものの良さと同じくらい、ファンの人たち(例えば萩原健太中山康樹)の熱狂ぶりに惹かれてファン*3になったクチなので、kubokeさんにも非常に感謝しています。これからもよろしくお願いします。

*1:http://d.hatena.ne.jp/kuboke/20050216#p1

*2:http://www.c.do-up.com/home/kuboke/bb5.htmはてなのプロフィールからも辿れるようになっています。

*3:というほどのものでもありませんが。