Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

堀込高樹『Home Ground』★★★★☆

Home Ground
以前にも書いたが、僕は、ボーカルをちゃんと聞き分けられない。ビートルズビーチボーイズなどの外国人は当然として、奥田民生阿部義晴大瀧詠一細野晴臣田島貴男高浪慶太郎、そして当然キリンジの二人もよく分からない。そういう自分にとって、キリンジのメインボーカルではない堀込高樹がソロアルバムを出してくれるのはそれだけで嬉しい。どっちが歌っているかで悩む必要がないから。

今回、web上にたくさんインタビューがあるのだが、どれも面白いものだった。(キリンジは不勉強な部分が多く、初めて知ることも多かったからかもしれない)感想前に、少しピックアップ。

まずエキサイトミュージック。

Excite:キリンジの作品リリースをしばらくお休みしているわけですが、まず先にリリースされた、泰行さんのソロ・プロジェクト"馬の骨"を聴いていかがでしたか。

堀込:「そんなにキリンジと変わらないな」と思いましたね。というのは、キリンジの時に泰行が持ってくるデモって、これに近いんですよ。それをバンドで録って行って、そこにブラスとか、ストリングス、シンセなりを加えて行ったら、普通にキリンジの曲になるんですけど、あのアルバムではそういうことをせず、その手前で作っているから、僕にしてみれば"あの音"っていうのは、キリンジの時、スタジオでリズム録りをしてる時に聴いてる音に近いんですよ。僕は、そういう全部の工程を知ってるから、「その寸止め感がいいな」と思うし、聴く人にとっては、ロック・バンドっぽいっていうか、バンドのポップスとして楽しめるんでしょうね。

これを読んでよくわかったんだけど、僕が「キリンジ」だと思っていたのは、このデモテープ後の“装飾”の部分みたいだ。どうも、そこは、堀込兄弟+冨田恵一でやるみたいなんだけど、泰行(弟)よりも高樹(兄)、冨田の色が強く出ているのだろう。
今回、『馬の骨』よりも『Home Ground』の方が断然キリンジっぽく感じたのは、そういうわけだ。

次は歌詞。
ちょっと長いけどOngakuDB。

高樹:うーん・・・例えばそこに椅子があったとして、まあ椅子は椅子なんだけれども、でもどこからどう見るかっていうことでしか椅子とは対峙できないというか。結局、物事っていうのはそんなに大差ないというか。だからこそ視点で面白みを出すとか、それがいいんじゃないかなって気が僕はするんですよね。普通に生活をしていても、見方ひとつで面白くなるというか、そういうことなんじゃないかと。
■ 高樹さん自身の中では、取り立てて変わった題材を取り上げようという意識があるわけではないと。
高樹:ちょっと思ったようなこととか、ふと面白いと感じたことを歌うのが好きなんでしょうね。突き詰めて考えるとね、どうしても歌いたいことってあまりないんです。「僕のことを分かってほしい」みたいな気持ちもあんまりなくて。それよりも、「こういう景色があるよね」とか「楽しいよね」って歌うほうが自分の性に合ってる。
■ 「俺がこう考えるから君もそう考えろ」と強く表明している歌は、高樹さんの詞にありませんからね。
高樹:そうなんですよね。(中略)
パティシエや料理人っていう人たちは、もちろん作り手なりの自己表現があったり、そこにいろんな想いを込めたりはするんでしょうけど、でも、その想いを分かってほしいと思って料理を出す人ってあんまりいないと思うんですよ。やっぱり、食べる人が美味しいって思ったり、楽しく食事ができたって思われる方が作る側にとっては重要であって。自分がこういうところにこだわりましたとか、こういう信念を持って作りましたってことを言うのは、実は聴き手にとってはあまり関係ないことなんじゃないかなって。

さらにmusic club on line。

高樹:視点が面白いって言われるのはまぁそうかと思うんですけど、シニカルと言われるのはピンとこないところが正直あって。っていうのは、普通の生活してたら チェッって思うことっていっぱいあるじゃないですか。ちょっとしたツッコミを入れたくなることも山ほどあるでしょ?そういう日常があるのに、なんでそれを歌詞にす るとシニカルって言われるのかっていう疑問があったんですよ。じゃあ前向きなこと しか歌えないじゃない!って話だし。だからいちいち面倒くさい、みたいな気持ちはあって。

── 一生懸命生きようみたいな歌の方が理解しやすいんですよね、絶対に正しいから。
高樹:でも正しいことを改めて言われたら、改めて言われてそうだと思う時もあれば、まぁそりゃそうなんですけどっ(怒)、って受け取る時もあって。しかも後者の方が圧倒的に多いと思うんですよね。100回のうち1回、正論を素直に聞けたとしても、残りの99回はどうするのかなぁと。

僕はメッセージソングが大好きだけど、堀込高樹の言うような「こういう景色があるよね」とか「楽しいよね」という歌も好きだ。パティシエの喩えもわかりやすい。僕自身、曲を聴くときに、作り手の迷いみたいなところまで読み取ろうと深入りしてしまう悪い癖があるので、それは半分程度にしておいて、残り半分は、純粋に音を楽しもうと思った。

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で、総評としては、とてもイイ。このアルバムはとてもいい。
ムダのない選曲。「涙のマネーロンダリング」「クレゾールの魔法」に代表される変な歌詞。そして凝ったアレンジ。どれも僕のツボだ。
中で一曲選ぶなら「冬来たりなば」。クラムボン原田郁子がコーラスで参加しているのだが、これはコーラスとは言えないほど力強い。昔は矢野顕子っぽい歌い方をする人だなあ、くらいにしか思っていなかったが、見直しました。
で、この曲、最後に付け足しのように「春よ来い」という歌詞があるのだが、メロディ的に言ってはっぴいえんどのファーストアルバム(ゆでめん)の一曲目へのオマージュだろう。両方とも正月の歌だし。あ、もうそろそろ2005年も終わっちゃうのか・・・・。
なお、ラスト「一度きりの上映」は、オリジナル・ラヴ「ショウマン」を思い出した。どちらもいい曲。