Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

スガシカオ『真夏の夜のユメ』★★★★★(5つ星!)

真夏の夜のユメ(初回生産限定盤)(DVD付)
タイアップのついたスガシカオのシングルは、これまでもいくつかあったが、その中でもかなりの傑作ではないかと思う。*1
映画『デスノート』の挿入歌で、本人も原作の愛読者ということであるため、力が入っているのだろうか。
 
何故「傑作」という言葉を使いたいかというと、シングルでありながら新曲3曲が入っているというお得感だけでなく、映画の挿入歌として使われている1曲目以外も、デスノートを多分に意識し、同一のテーマを扱った言わば「コンセプトアルバム」ならぬ「コンセプトシングル」として成立しているからだ。
 
「僕は孤独で嘘つき」で始まるタイトル曲が、主人公の夜神月(ライト、と読む)をイメージしているのも明らかで、映画のシーンが多く挟まれたPVを一度見てしまうと、イントロを聴いたらすぐにデスノートの世界が思い浮かぶほどだ。
なお、夜神月の独善性、目的のためには手段を選ばない行動の裏には、実際には躊躇があり、本人は傷ついているのだということを、「物語の救い」として読者の多くが信じていると思う。このシングル曲は、そういう、漫画には描かれていない、読者の想い描くライトの本心がうまく表されていると思う。
 
しかし、驚いたのは、2曲目「秘密結社」である。
スガシカオの曲には、お笑い交じりの歌詞がポイントのものが数多くある。
たとえば、結婚式で演奏を頼まれ、自分の番が回ってくるまでのドキドキを描く「ドキュメント2000」*2、恋愛と思っていた相手に英会話教材を買わされる「Go!Go!」、貸した2万円の催促のために手紙を書く「このところちょっと」なんかがそれである。
「秘密結社」も歌詞の内容は、"秘密結社をつくって世界を救おう"という大馬鹿なものなのだが、実は、これはデスノートの世界観とマッチした内容となっている。

君にも一人くらい 許せない奴がいるんじゃない?
「いないことないけど・・・今さらもう、どうにもならないし・・・」
“それ名前と住所ってすぐわかる?
まずは近い奴から成敗しよう・・・”

(ここで、「成敗」っていう言葉を選ぶあたりが、さすがと思う)
これは、ちょうど、相手を殺すために必要な「名前」と「顔」をめぐって物語が大きく動くデスノートの内容とかなりリンクしている。*3
デスノートで描かれる世界を巻き込むストーリーを、茶化すような「台無し」な曲が2曲目にあるところが、ベタとメタが交錯するスガシカオワールドの真骨頂なのだと思う。
そもそも「政治化とかさ そうゆう人」「風俗で儲けた奴」「すごい秘密結社」「アジト」「築15年エレベーターなしの雑居ビル」なんて歌詞をかっこよく歌えるのはスガシカオ以外にいない。
 
3曲目「真夜中の貨物列車」は、「秘密結社」とは大きく異なり、バラード調のまじめな歌。

何を運んでいるのでしょう?
本当はぼくも知らない
ただ走るだけ 誰かが待ってる
ずいぶんと大事な物らしい

「ぼく」=「真夜中の貨物列車」が運ぶものは、ここで描かれる「笑顔あふれてる街」「緑あふれてる街」「空に悲しみのない街」「星に憎しみのない街」への「希望」「ねがい」みたいなものなのだろうと思う。
しかし、それが、「トイレに起きた子供に」「気づかれないように」運ぶ、後ろめたいものとして書かれているのが特徴的だ。
結局、「笑顔」や「緑」が減り、「悲しみ」や「憎しみ」のあふれる、この現実世界の一面がクローズアップされてしまう、そういう悲しい歌。でも曲の展開は明るいので、「絶望」について歌っているというよりは、「絶望の中に残された希望のかけら」について歌っているといえるのかもしれない。
 
1曲目と3曲目が、どちらも「夜」という言葉をタイトルに含んでいるのは、デスノートの主人公の名前「夜神月」と無関係ではないだろう。そして、デスノートがそうであるように、人間社会への希望と絶望を描いているのが、この3曲セットのシングルの一貫したテーマなのだろうと思う。
アルバムのことだが、個人的には、この3曲はこれで完結しているので「全部入れない」という判断がベストな気がするが、おそらくタイトル曲のみ収録となるのだろう。「秘密結社」なんていう大傑作がありながら、これを「控え」に回すという贅沢なメンバー構成で、ブラジル代表にも勝てるくらいのクオリティを持ったかなりの名盤が期待できるはずだ。

*1:スガシカオのタイアップ曲というと『青空 / Cloudy』(両A面、両面タイアップ。一曲目が映画「仄暗い水の底から」主題歌)を思い出すが、僕はこれが苦手。ただ、去年の高校野球関連のタイアップ『奇跡』は良かった。

*2:秘密結社は、ちょうど曲調がこれに似ている

*3:デスノートに名前を書くと、書かれた人は死ぬのだが、前提条件として相手の顔を知っている必要がある。