Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

松井秀喜『不動心』

不動心 (新潮新書)

不動心 (新潮新書)

「人柄」で読ませる本である。
教訓めいた内容も多いが、これを引用して載せても、その言葉の持つ迫力は、同じ言葉が松井の言葉から出るときに比べて格段に小さい。

松井は、とにかく、周囲への感謝の念を忘れない謙虚な人間である。そして、コントロールできない過去を悔いるよりコントロール可能な未来に意識を向ける前向きな人間である。
自分の場合は、松井と同年齢ということもあり、自然と、その考え方を自分の場合と照らし合わせて読んでしまうのだが、恥ずかしくて読むのがつらい部分が多々あった。


座右の銘とされる言葉がいくつか出てくるが、「努力できることが才能である」という言葉は心に痛い。
羽生善治の本でも同様の言葉*1が出てきたが、そのときよりも格段に痛い。
自らを「才能のあるタイプではない」と評する松井の生き方の前では、この言葉は「持って生まれた才能がなくて、しかも努力もしないなら、あなたに何が残るのか」という問いかけを裏に持って迫ってくる。
自分が松井のように生きたいと思うのであれば、松井以上の努力が必要になるのは当然だ。

そのほか、話としては、長嶋監督と絆を感じさせるエピソード(ホテルや監督宅などで素振りなどの練習を見てもらった話)が面白かった。
トーリ監督などヤンキースの面々の話も出てくるが、そういう自分以外の人間を紹介するエピソードからは、逆に、周囲の人間に対して常に低姿勢で学んでいこうとする松井自身の生き方が見えてくる。

惜しむらくは、タイトルが地味であることだ。いまいち本書の魅力を十分に反映しているものとはいえない。しかし、それすらも、地味な努力を惜しまない松井秀喜の人柄が表れているものと思えてくる。
知識として新しいものが増える本だとは思わないが、精神的な部分で大きなものを得られる本だと思う。

*1:「才能とは、同じ情熱、気力モチベーションを持続できることである。」『決断力』P168