- 作者: 枡野浩一
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2010/07/15
- メディア: 文庫
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万人にオススメはできないが、ちょっと変わった本であるため、人の興味を引きやすいと思う。
具体的に、おすすめポイントは以下の3つ。
「書評小説」と称しつつ、実態は身辺雑記
そう書けば、メタ的な部分を持ち、実験要素の大きい小説なのではないか?と期待してしまう人もいるかもしれない。
確かに、「結婚失格」は、雑誌「小説時代」の2003年の書評コーナーを占めていた文章であり、「書評」ではある。そして、主人公である速水というAV監督は架空の人物であって、そういう意味では「小説」である。しかし、それらのギミックは、本書の内容に全く無関係な単なるオマケで、実態はエッセイ。いや、エッセイという軽い雰囲気のものではなく、枡野浩一本人の離婚をめぐる非常に面倒くさい顛末記が、この本の全てだ。
したがって、速水(AV監督)=枡野浩一(歌人)であり、それが、最後になって分かるというようなシャレたつくりにはなっておらず、最初の最初から、枡野浩一が全開なのだ。
故に、紹介する12冊+αの本も、やはり離婚がらみの本が並ぶ。
- 作者: 坂崎千春
- 出版社/メーカー: WAVE出版
- 発売日: 2006/02/07
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- 結婚していた頃、妻の籍に入ったが故に経験した、自身の同姓同名話を思い出す・・・
- 作者: 松尾スズキ
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2008/08/28
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- ヒロインに父親違いの妹がおり、母親が二度目の夫と離婚しようとしている話を自身と重ねる・・・
- 作者: 島本理生
- 出版社/メーカー: 講談社
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- 作者: 大堀昭二
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
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- 作者: 中原昌也
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盛り沢山の「結婚失格」の場外乱闘
この本が面白いのは、「結婚失格」という本体部分以上に、著名人も多く参加した「あとがき」「特別寄稿」「解説」部分の充実ぶりが半端ないからだ。
まずは「あとがき」。枡野浩一本人によって作品の舞台裏が語られる。といっても、上で述べたように、ほぼ全ての読者は、速水=枡野として読んでいるから、本編とテイストが全く変わらない。一応、ここで初めて、元妻である南Q太の名前が登場する。一つ残念なのは、自分が彼女の作品を全く読んだことがないこと。内田春菊、岡崎京子、桜沢エリカ・・・とひとくくりにしていいのか分からないが、この系統の作品には全く食指が動かず、いわば「食わず嫌い」のジャンルになっているのだ。そのほか、文章中にはルポライターの藤井良樹が登場している。
次に「特別寄稿」。“真夜中のロデオボーイ”と題された文章は、枡野浩一、穂村弘、長嶋有の三人が桝野浩一宅で会ったときの話をそれぞれの視点から語っているのだが、まず、枡野浩一VS穂村弘の直接対決が見られるというだけで面白い。実質的に、この本を買ってみようと思ったのは、この直接対決見たさが大きかった。それこそ、長嶋有が「今夜ついに短歌界の若手二大巨頭があいまみえる!ニューリーダーとナウリーダー、生き残るのはどっちだ!」とはしゃぐように。
そして、「解説」。ここでは、映画評論家の町山智浩が、「結婚失格」と『人間失格』との類似性を指摘しながら、速水の考え方が如何におかしいかを指摘し、痛烈に批判する。町山智浩の文章はテレビブロスでも読んだことがあるし、podcastでその声を聴いたことも何度もあり、批評家としてプロフェッショナリズムを貫く人であることは知っていたが、この文章は、とにかく圧巻。
「正しさ」と愛は無関係
この本を読むことで、読者の「結婚観」「離婚観」が問われるかといえば、問われない。
むしろ、個々のケースがそれぞれ特殊で、単純に当てはめようとすることの方が無理と考えてしまう。そして、結局、枡野浩一の特殊性が、最後に浮き出てくる。
暇なときに、つい手に取ってしまう愛読書『石川くん』は、ダメ人間石川啄木について語られた本だが、語る枡野浩一が、言葉の端々からにじみ出る、そんな本。これを含めて、どの本を読んでも、自分は枡野浩一とは仲良くなれないなと思った。性格がきつそう、というか几帳面、かつ自分の才能に過度に自覚的なところが自分には相容れない部分だった。だが『結婚失格』を読んで、初めて息子と会えない枡野浩一にシンパシーを感じ、逆に、南Q太に敵意を抱いたのだ。単純な自分は。
しかし、解説の町山智浩が、そんな枡野浩一=速水を叱る。とても納得のいく言葉で。(一部を抜粋)
速水の現実に対する感覚は思春期の少年のそれと同じだ。現実とか人の心は不条理で理不尽で非論理的で言葉にできないという当たり前の事実が理解できていない。そして理不尽なものは悪いと考える。妻の突然の失踪と離婚訴訟自体が非言語によるメッセージだったのに、彼はそれを言語にしろと要求し続ける。
そして速水は妻に自分の正しさだけを主張し続けた。「僕は正しい」と言うのはイコール「君は間違っている」という意味だ。相手の屈服を望んでいるのだ。そんな人には誰も屈服しない。
(略)
「正しさ」と愛は関係ない。人はむしろ正しくないものを愛してしまう。ロクデナシを愛し、悪女を愛し、他人の恋人や配偶者を愛する。妻があるにもかかわらず他人の妻を心中に巻き込み、彼女を死なせ、自分は平気で生きている太宰治が、なぜか女性から、友人から、読者からあんなにも愛されたのか。
枡野浩一自身が、銀色夏生の詩を引用しながら詠っているように「正しさの 中にいるから あなたには ここから先は 理解できない」のだ。podcastで聞いた大森望による枡野評も、基本的に町山智浩に倣ったもので罵倒の流れ。どうも、本人に会ったことのある人ほど、そう感じるものらしい。
ただ、同時に、その部分こそが枡野浩一の大きな魅力であり、昔の人が、天は二物を与えず、と言ったのは本当だったのだなあ、と感じた。
*1:つい先日まで女性とは知りませんでした!