Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

石原千秋『「こころ」大人になれなかった先生』

『こころ』大人になれなかった先生 (理想の教室)

『こころ』大人になれなかった先生 (理想の教室)

一冊の作品を味わい、とことん読み込むためのガイドという、みすず書房の「理想の教室」シリーズの主旨は非常に共感できる。
しかし、この本については、そんな「理想の教室」シリーズについて少し疑問が沸いてしまった。
具体的には本の構成。
前半60ページは『こころ』のテクストの引用があり、その後30ページずつ3回にわたって講義のような体裁で文章が綴られるが、テクストの引用量が微妙すぎる。全文引用もしくは、必要部分のみ適宜引用が妥当だろう。特に『こころ』のような文学作品で途切れ途切れに60ページ読む、というのは、それこそ本来の作品の読まれ方ではない。
また、この60ページの引用部分についての説明(何故この部分が引用されているかなど)が出てこない点にも不満がある。本を読むまでは、前半部に作品全部が含まれているのだと思い込んで、勝手にお得感を味わっていた。高校〜大学時代に読んだ、おぼろげながら記憶もあり、途中から「抜け」に気づいたが、『こころ』が初読でこの本を手に取る人もきっといると思う。そういう人にとっては、この説明不足な構成は、あまりにも不親切ではないだろうか?
〜〜〜
とはいえ、登場人物の少ない作品ということもあり、ストーリーについて特に混乱することもなく、本の内容を追うことができた。
作者の『こころ』の読み解き方も、かなり強引な部分もあるが、筋が通っているし、先生、青年、静(先生の妻)という主要登場人物3人の視点から見る、という読み方が、作品に適していると感じた。
しかし、「先生」編の前半部分で繰り返されることになる以下の部分については、よくわからなかった。

先生が、人の「言語動作」(外側の自分)と「心」(内側の自分)とは一致しているべきだと考えていることは明らかでしょう。これが先生の「倫理」でした。

先生が「内側の自分」が「外側」=言語動作に現れているのではないか、と心配したのは非常によくわかるし、先生の思考を追跡する中では、「内側」「外側」の考え方は必須だと思いつつも、上記引用部分が、納得できないまま繰り返されるところが、ちょっとなあ、と思った。
ただし、登場人物の心理分析だけでなく、時代背景など*1にも詳しく、非常に参考となる一冊だった。
装丁もかっこいいし、もう一冊くらい、このシリーズを読んでみたい。
『こころ』は、とりあえず読んだ気になったので、再読は・・・まあいいか。どうせなら他の漱石作品を読むことにします。

*1:そもそも、この物語は、明治天皇崩御にも強く関連しており、歴史の要素は強い。