Yondaful Days!

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農業だけじゃない!どうなる?日本の漁業!〜小松正之『これから食えなくなる魚』

これから食えなくなる魚 (幻冬舎新書)

これから食えなくなる魚 (幻冬舎新書)

息子ようたは、最近マグロが大好物で、食に興味の薄い子ながらも珍しく良く食べる。それだけに、ニュースでマグロの値上げが取り上げられるたびに、「こんなに安く食べられるのも今だけだから・・・」と冗談めかしてよく言っている。
国際的な魚食ブームの中で価格が高騰し、あの魚もこの魚も「これから食えなくなる」。
しかし、この本の主旨は、そこにはない。
もちろん、価格高騰は事実として存在するし、今後もその傾向はあるが、より深刻なのは、国内外の漁獲資源管理の問題*1と、国内漁業の衰退の問題で、むしろこちらが内容のメインとなっている。
マグロについては、読者の興味もあるところなので、三章「マグロはいつまで食べられるのか?」で詳述されているが、これも資源管理と国内漁業の観点から述べられている。
ただし、作者としては、マグロばかりに注目がいくのに苛立っているようで、「マグロを安く食べたい」というのがナンセンスと説く。

あのバブルの時期でも、日本人はそれほどマグロを食べていない。現在のような値段で、誰もがスーパーでマグロの刺身を買い、回転寿司でトロの握りを食べられるようになったのは、実のところ21世紀に入ってからである。長年の習慣でもなんでもない。P34

昔は「高級品」だったマグロやサケが、高度経済成長期を経て日常的な食材となり、かつて「定番」のおかずだった魚たち(アジ、イワシなど)を食卓から追い出したというわけだ。P14

日本の水産業について

食料自給率というと「農産物」だけを思い浮かべるが、魚介類の自給率低下も著しい。113%(1964年)→57%(2005年)(消費量は世界一)という数字は、なかなかインパクトのあるものだ。
本書二章では、養殖から遠洋漁業、加工業に至るまで、日本の漁業が危機的状態に陥っていることが説明される。消費者側の要因としては、安さや見た目ばかりを追い求める姿勢、行政側の原因として、使わない漁港の整備に多額の税金が使われる非効率、また、職業としての漁業の魅力の無さが挙げられていた。
最後の「魅力」については、たとえば、北欧では、漁業者のメインの職場である「漁船」の職場環境改善について、かなり多くの費用が使われていることが示されていた。結局、これは、行政の非効率の問題なのだが、漁船に金が行かず、漁港にばかり金が行くのは、いつも通りの「縦割り行政」。いわく国交省は金を持っているが、水産庁には回らない、とのこと。*2

経済合理性と食文化

少し「消費者」の立場から。
スーパーの魚売り場には、さまざまな国の名前が並ぶ。産地と加工地が異なる場合もあるので、ひとつの切り身が複数の国を渡ってたどり着いていることも多く、国産かどうか、などには半ば無神経になっているところもある。(中国産かどうか、には気を配ったとしても)
しかし、やはり変なことになっているなあ、と感じてしまう事例が多いことは確かである。

  • 北海道で土産用のサケを買おうと思うと、そこには「ノルウェー産」と書いてある。(P50)
  • 需要の少ない近海カツオはタイに輸出に出されて猫缶になり、それをまた輸入している。(P107)
  • 売られている鰹節の大半は輸入品(加工は日本)

まさに、「日本の漁業は高級カツオを猫に食べさせるために存在するのだろうか」という作者の疑問は、誰もが理解できるものだ。
漁獲管理について、消費者側が協力できることは「多く取れる魚を食べる」ということ。最初に引用した「マグロやサケが、かつて「定番」のおかずだった魚たち(アジ、イワシなど)を食卓から追い出した」という指摘は、まさにそのとおりだし、、消費者側の嗜好よりも、自然の恵みを優先させた食材選びこそが「旬」なのだろう。
年中同じ食材が並ぶ「便利」が「旬」を失わせている。経済合理性は、食文化から文化を取り除く。他の国と比べて、日本では、それに対する危機感は少ないのかもしれない。

メモ

漁業で管理といえば、「養殖」があるが、養殖マグロは資源枯渇につながる、という話。

  • 海から獲ってきた小さなマグロを脂が乗るように飼育し、40キロ程度まで大きくしてから市場に出すのがマグロの養殖ビジネス
  • 養殖が進めば進むほど小型のマグロの漁獲量が増えることになるので、資源がさらに悪化してしまう

(P92)

だから、マグロの養殖成功!などという話がニュースになる。
http://www.pronweb.tv/newsdigest/070821_amarine.html


これについては、自分はほとんど気にしたことが無かったが、スーパーでよく見かけるノルウェー産の魚について。

ノルウェーの養殖物はダイオキシン類の蓄積量が多い。国産のサケを10切れ食べるのと同じくらいのダイオキシン類が、ノルウェーの養殖物を一切れ食べただけで体内に入ってくるのだ。
食の安全性への意識が高いヨーロッパの人たちは日本のサケを食べているのに、日本の消費者はノルウェー産を食べている。「脂が乗り色がきれい」という理由でそちらを選ぶ人も多いようだが・・・P147

買ってくる刺身類には、ノルウェーとかチリとか、ものすごく多いような気もします・・・。

*1:温暖化が進んで世界が滅びるのと、食べるものがなくなって世界が滅びるのとどっちが先か、という話。あまり考えたくない。

*2:ただし、ここら辺は、著者が水産庁出身であることからくるポジショントークである可能性もあり。