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モチベーションを維持するために〜きりばやしひろき『大人のための3日間楽器演奏入門』

大人のための3日間楽器演奏入門 (講談社+α新書)

大人のための3日間楽器演奏入門 (講談社+α新書)

タイトルを見て手に取ったが、内容は、新聞やテレビなどでも何回か取り上げられていた「楽器挫折者救済合宿」*1に関する本。作者は「叫ぶ詩人の会」のきりばやしひろきさん。
何かを始めるきっかけとなるような「きっかけ本」は、作者自らが壁を乗り越えてきた経験をメインに話が展開される『40歳からのピアノ入門』のようなタイプも多いが、この場合、読者が作者と一体化できなければ、本の説得力は非常に低くなる。その点、この本は、壁にぶちあたった数多くの挫折者を救済してきた作者の経験から書かれたものであるので、事例も多く、客観的で説得力のある論が展開される分、満足度(と期待感)も高い。
例えば、冒頭で、楽器挫折者を生み出している3つの要因として以下を挙げているが、実際の挫折事例に沿っているので説得力がある。

  1. 基礎練習のつまらなさ
  2. 楽器のことをまだよく知らないはずの初心者が自ら安易に挫折原因を特定すること
  3. いつでもできるからいつまでもやらない(最大の要因)

僕自身、過去を振り返ると、大学時代に買ったギターが、何となく押入れにしまったままになっているのは、やはり1,3が大きな原因だろうか。それ以上に挫折を繰り返している英語学習についてもほとんど同じことがいえる。
また、挫折を乗り越えるために最も必要なもの(P86)として、“技術よりも「モチベーション」”“「モチベーション」を自分でコントロールすることが、練習と同じくらい重要”と述べられているが、これも非常に納得できる意見だ。


やや話は飛ぶが、最近、仕事を含め自分自身のスキルアップ*2に向けてのモチベーションが非常に低い状況が続いているので、上の議論を参考に状況を分析してみた。
上では「技術」+「モチベーション」の両方を継続して上げていく(もしくはコントロールしていく)ことが重要としているが、これまで社会人としての自分を何とか成立させていたものとして、これに「鈍感力」を加えたい。すなわち、「技術」「モチベーション」「鈍感力」のバランスが、自分を支えていた。
1年ほど前までは、ブログの文章を読み返してみても分かるが、絶好調だった。今と比べて自信に充ち溢れ、万能感があった。勿論、モチベーションも高かった。それが、ここ数ヶ月、急激に落ち込んだのは、上の3つのうち「鈍感力」が元凶だ。いや、わかりにくいので言い直すと、「鈍感力」が「鈍ってきた」せいだ。構図としては以下の通り。

  • 従来:「技術」の低さを「鈍感力」でカバー ⇒ みなぎる「モチベーション」 
  • 現在:「鈍感力」が落ちて、「技術」の低さに気づく ⇒ 「モチベーション」下降 ⇒さらに「鈍感力」が下がり、心配症になる

ということで、実はハリボテであったのだが、長い間、自分を支えていた「鈍感力」という無責任思考が力を失ったため、「モチベーション」をどのように上げていくのか、気づいてしまった「技術」レベルの低さをどのように克服していくのか、という大変根本的な課題に頭を悩ませているのが現状だ。


さて、本書で挙げられているモチベーション回復の方法は以下の通り。(P88-89)

  • 音楽DVD*3を見る、好きなCDを集中して聴く
  • 舞台を見る、コンサートに行く
  • 身近な友達のライヴステージを見る
  • 音楽好きの仲間を集めて盛り上がる話をする

ここでは明確に述べられていないものの、モチベーション維持のために最も重要なのはバンド演奏であることが繰り返し述べられている。一人の演奏では決して生まれない「アンサンブル・マジック」という化学変化もその一つだし、冒頭に挙げた3つの挫折原因は、バンド演奏であれば、かなりの部分を取り除くことができる。
だから、本書のサブタイトルにも「バンド演奏」と書かれているし、「楽器挫折者救済合宿」自体が、3日間の練習の最終日に、人前でバンド演奏の発表を行うことを目的としている。合宿の参加者にリピーターが多いのは少し気持ち悪いが、モチベーション維持のために、それをむしろ積極的に認めている作者の意見にも納得できる。
そういう意味では、『40歳からのピアノ入門』の鮎川久雄さんなんかは、自分の興味だけでいくらでも突き進める、モチベーション管理に困らなかった人なのかもしれない。(この本の中でもバンド演奏の重要性については触れられていたが)


なお、3日間という短期間で、どのようにして初心者にバンド演奏ができるように教えるかについては「救済マジック」という名で少し触れられている(ギターのコードの省略やコードチェンジのこつなど)が、やはり一番重要なのは「モチベーション」であり、その起爆剤としての「バンド演奏」なのだろう。

さて、このことを自己の問題に敷衍してみると、重要なのは、仕事仲間との関係、ということになるか。それについてもそこはかとない不安を抱きながらも、「鈍感力」を除いた「技術」「モチベーション」の向上を図るべく、いろいろと努力していく所存です。

追記

ピアノについては、クラシックピアノが基本とする“楽譜表記”とロックやポップスで主に使われる“コード表記”とを比較し、数ページにわたって文章を割いており、そのうえで、以下のように書かれている。

強烈にプッシュしたいのは、どちらかといえば“コード表記”、正確にいえば、コード表記を踏まえた「コード表記で演奏する際の思考パターン」です。(P166)

特に、クラシックピアノ経験者の挫折は「楽譜がなければ何も弾けない」ということを考えてのことのようだ。ここら辺は、完全に、『40歳からのピアノ入門』と同じような話になっている。
なお、ピアノ購入については、デジタルピアノを薦めており、条件として以下を挙げている。これも『40歳からの〜』の指摘事項とほぼ同じだ。

  • サンプリング音源のもの
  • タッチがしっかりしたもの

*1:HPはこちら→http://www.q-sai.net/index.html。本書では「のべ300人」と書かれていた「救済者」は、もう少しで1000人!

*2:スキルアップという言葉を書くことにも抵抗があります。「スキルアップ(笑)」と書きたいくらいやさぐれています。

*3:ここでは『ウッドストック』や『永遠のモータウン』『ザ・ビートルズ・アンソロジー』などが挙げられている