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新しい「邪悪な」放射線標識に驚く〜藤高和信『基本を知る 放射能と放射線』

基本を知る 放射能と放射線

基本を知る 放射能と放射線

3.11以降に出版された放射能についての解説本。見開きで左側に説明、右側に図表というフォーマットが統一されており、図表も非常に見やすいもので、「基本を知る」のには、ちょうど良さそうな本です。
著者は、JAXAの宇宙放射線被曝管理分科委員という肩書きで、直接的には関係も強くなさそうではありますが、原発や今回の事故に対するスタンスが曖昧な点(強く問題視していない点)は、少し気になります。3.11以降に書かれるからこそ、中立的な立場ではなく、今回の事故に対するスタンスを明確にして、論点を整理し、それに対して解説するべきではなかったかと思います。

驚いた部分

衝撃を受けたのが新しい放射線標識。

えーー!
よう太が「マーク」「標識」は大好きなので、これまで大抵のマークは見たことがありましたが、ここまで邪悪なものは見たことがありませんでした。2007年ということで、既に4年経っていますが、あまり浸透していないのでしょうか。病院のレントゲン室にこのマークがあったらとても嫌です。(笑)

基本を知った部分

特にヨーロッパにおいて、屋内のラドン被曝が問題となっていたことは初めて知りました。(p68「29 家屋とラドン」)
例えば、「空気をあまりきれいにして塵がゼロという状態にすると、かえってその部屋の原子状ラドンは人体の呼吸器深部にまで入ってきて、特定の部位はかえって危険かもしれない」などという話があるそうです。なお、こちらの論文によれば、屋内ラドン濃度レベルに対して、スウェーデンで用いている規制値は約40mSv/年という高いもので、一方、日本人のラドンによる被曝線量は、約 0.5mSv/年ということで、世界平均の半分以下とのことです。
http://www.kenkobunka.jp/kenbun/kb24/iida24.pdf

不満

「わかりやすい」を意図して書かれたものにしては、一部、日本語表現に難があり、非常に読みにくい箇所があることは書いておきたいと思います。(もとは英文で書かれていたものを無理矢理日本語に戻しているのではないかと思うほどです)
やはり一番決定的なのは「46 福島第一原子力発電所の事故」の章です。まず、冒頭から数行を引用すると…

3月11日午後に大地震と大津波が東北地方を襲ったとき、最初に気にかかったのが、女川と福島の原子力発電所は大丈夫だろうか?でした。
結果的に福島では4基の原子炉が破損しました。あらゆる外部電力が取れなくなるなど、想定外のことが起きたのです。本当によい教訓になりました。被ばく線量の値が報告されてきますが、もの凄い値です。

「本当によい教訓になりました」という言葉がここに入ってくる意味がよく分からないし、本心で書いているのだとしたら、あまりに日本に住む科学者として他人事過ぎないかと感じてしまいます。
続く部分も意味がとりくにい内容です。あまりに意味がとりにくいので、一行ずつ区切ります。

  • 福島第一原子力発電所の事故以来、報道のためでしょうが線量という言葉が世の中を席巻しました。
  • 何でもシーベルト単位で表わせる便利さと相まって、シーベルトという言葉が一般的になりました。
  • でも計測器も正しく使用しないと誤ります。
  • 東京エリアでは飲料水が売り切れました。千葉エリアでは野菜に疑いがかけられるという次第です。
  • 環境は発生時から放射性物質でできているんだ、という科学的には正しく、ただし庶民の感覚としては言い訳にしかならない言葉です。

1文目から3文目までの展開は分かりやすいですが、それを持って、4文目で何を言わんとしているのかが全く分かりません。線量計の測定ミスで風評被害が生じることがある、と言いたいのかもしれませんが、直後の飲料水の売り切れは、測定の問題とは無関係だったように思います。5文目については、やはりどこかで翻訳を誤っているとしか思えません。自分にはよく分かりませんでした。


非常に見やすそうでボリューム的にもちょうど良い本だったのですが、自分の求めているものとは少しずれていたようです。放射能に対する問題意識を再整理してから、他の本も読んでみようと思います。(例えばK40などの自然放射能による被ばくの程度については、本で勉強しておきたい。)