Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

生きて、そして、死ぬこと〜谷口ジロー『犬を飼う』

犬を飼う (小学館文庫)

犬を飼う (小学館文庫)

谷口ジローは淡々とした作品を描く人だという風に思っていた。
表題作「犬を飼う」は、確かに淡々とした話で、少しもドラマチックではない。15歳になる飼い犬が死ぬ前の一年間を綴ったこの漫画には、例えば同じく飼い犬を題材にした大ヒット漫画『星守る犬』のように映画化できるような展開は全くない。
しかし、この作品には、作者が犬に向けた熱い思いが詰まっている。特に、タムが寝た切り状態になってから数回挟まれるタムのスケッチには、言葉以上に強い気持ちを感じた。また、あとがきでも触れられているが、タムの最期を切り取った短編としたことによって生きている頃のタムとの関係が、より効果的に伝わってきた。
続編として収められた「そして…猫を飼う」「庭の眺め」「三人の日々」では、いずれもタムの思い出話が少しずつ出てきた上で、共通して、“生きていく”ということについて語られる。特に、夏休みの終わりに、家出してきた姪っ子が転がり込んできた話は、犬や猫の出番が少ないからこそ、逆に、夫婦二人にとってのペットの大切さが分かるようになっている。
漫画のテーマは、登場人物の言葉を借りれば、「人間も動物も、たった一人ではいきていけないものなんだなあ」ということ、「生きるという事、死ぬという事、人の死も犬の死も同じ」だということ、そして「迷惑をかけずに死んでいきたいけれど、なかなか思うように死ねない」ということ。
誕生と死と出会いと別れがあり、しかしドラマチックでない短編ばかり。
谷口ジローの漫画は、だからこそ伝わってくるものがあるのかもしれない。


なお、ヒマラヤ登山を諦めきれない、父親であり夫であもある男の話「約束の地」も、ヒマラヤの風景とユキヒョウが美しく、感動的でした。こちらも安易に「盛り上がる展開」に向かわないのがいいです。