Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

改心したルンゲにドキドキ〜浦沢直樹『MONSTER』(11)〜(12)

Monster (11) (ビッグコミックス)

Monster (11) (ビッグコミックス)

モンスターの魅力は、展開の変化と、登場人物の心境の変化のメリハリが明確で、それが必然性を帯びていること。無理のある急展開はなく、読者の不意を突きつつ、これまで張られていた伏線、もしくは事実の積み重ねによって、あくまで「必然」の展開が読者を驚かせる。
そんな11巻、12巻の特に印象に残ったシーンを。

11巻(死角)

スークがアンナにすっかり心を開き、ラブシーン直前まで行った直後の急展開。
スークと別れたアンナの背中と、カッカッと響くミュールの靴音は、何故か冷たい雰囲気を纏う。そして家に戻り、バサッと「カツラ」を取ってから顔を洗い、鏡と向き合うまで、たっぷり3頁をかけて、彼女がヨハンだったことが分かるようになる。
双子の設定だから、十分あり得るのだが、ここまで二人の顔は描き分けられていたので、その可能性をあまり考えていなかった。この場面で、グリマーが見た「金髪の美女」も、アンナの恰好をしたヨハンであったことが分かり、ニ重に驚かされたシーンとなった。なお、その後、グリマーとすれ違うシーンのアンナはヨハンの表情になっており、アンナ(ヨハン)とニナの描き分けも見事だ。


次に、自宅を訪れていた同僚刑事二人が射殺されたスークがグリマーとともに、廃屋に逃げ込んでからのシーン。フード理論でいう「戦の前の腹ごしらえ」の通り、買ってきたサンドイッチを頬張るグリマーを見てリラックスし、子ども時代を語り始めたスーク。そこに銃声が響き、スークが倒れ、緩んだ空気が一気に張りつめる。
このシーンは、撃ち合いのアクションシーンを経て、グリマーが敵を全滅させたのを、駆け付けたテンマが見つけるところで一段落し、そこで初めてグリマーが511キンダーハイムの出身と分かる。隠し金庫のテープを聞いたときの過剰反応の意味もここに来て理解できる。

12巻(バラの屋敷)

入局以来はじめての長期休暇を取りチェコを訪れたルンゲ。古本屋で入手した「なまえのないかいぶつ」を翻訳してもらい、最後の頁で「ヨハン」の名前が出てくることを知り、容疑者をテンマからヨハンに完全に切り替えるシーン。
レストランでの注文を「君……ビールはやめて、コーヒーにしてくれ!」と頼み、電話で休暇の予定を聞かれて「長い休暇になりそうです。」と答える。この二言で、ヨハンにターゲットを絞り、改めて捜査を始める決意が見える。素晴らしい。


ルンゲが一気に捜査を進め、バラの屋敷の秘密の部屋まで単独で辿りつき、物語も収束に向かうのかと思いきや、テンマが身柄を拘束されるという展開には驚き。テンマが捕まると物語がストップしてしまう。折角良いペースで進んでいたのに邪魔をするな!と主人公に怒る読者も多かったのでは?順調に進み過ぎないように、丹念に練られた構成になっているのだろう。


さて、12巻では、最後にまた、エヴァ・ハイネマンが登場する。重要人物であることは分かるが、特別なことを知っている人物ではない。また、登場するたびに外見がみすぼらしくなっていく。これからどのようなシーンを演じていくことになるのだろうか。楽しみ。