Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

自ら動き出すキャラクター達に感動〜清水玲子『竜の眠る星』

清水玲子の『月の子』は、「本の雑誌」の読者紹介欄の記事で気になって次読むメモに挙げながら、そのまま読む機会なく20年近くが経ってしまった。ツイッターでその話題を出したら、オススメしてもらったのがこの『竜の眠る星』。

竜の眠る星 (第1巻) (白泉社文庫)

竜の眠る星 (第1巻) (白泉社文庫)


文庫版は全2巻構成だが、1巻はやや退屈だった。
中心となるのは中性的な魅力の美少年の外見をもった万能ロボットのエレナ。見かけは華奢でも、透視や遠くの物音を聞きとる能力があり、戦えば無敵状態の強さを誇る。しかし、その記憶に封印された部分があり、それが美しい顔立ちに影を落とす。

エレナが、自分の読んだことのある少女漫画*1に割とよく出てくるパターンのキャラクターなのがまず気になった。さらに、主人公役(『BANANA FISH』の英二役)のジャックが、これまたロボットであるという設定が理解できず、乗れなかった。*2
改めて振り返ると、前半部分は「なぜエレナが恐竜が棲息するケプラー系第三惑星セレツネワに行きたがらないのか」という物語的推進力はあるものの、自分が登場人物の誰にも感情移入しにくい話の展開で、入り込めなかった。


しかし、後半部からの盛り上がりが良かった。

竜の眠る星 (第2巻) (白泉社文庫)

竜の眠る星 (第2巻) (白泉社文庫)

いろいろなキャラクターを駒として切り捨てて、隕石の衝突というドラマティックな事件のみに焦点を当てていたらつまらない話に終わっていたが、それらのキャラクターが次々に生き生きとしていくのだ。

特にモニーク。
モニークは、短髪で「オレ」口調で話すが、一応れっきとしたルルブ王国の王女で、16に満たない少女。
しかし、前半は、ひたすら母親(女王)を慕い、そして母親によく似たエレナに憧れるだけのお人形でしかない。
自分が女王の子ではなく、敵国の王の血を引き、いわば「托卵」されていた事実を知ったあとも、エレナらの発案で、地球に連れ帰ることを受け入れるかに見える。ここまでの物語は、つまらなかった。
しかし、エレナの提案を拒否し女王に直接会いに行った上で、自分の意志を「ある行動」を持って伝えるシーンで、突如、これまで「駒」でしかなかったモニークの人生が浮かび上がってくる。


モニークを想うカウルも同じだ。お目付け役としての行動をはみ出し、モニークが不利になるのをわかっていながら、自分の気持ちに忠実に動き出す
ジャックを思うルイスも、隕石衝突直前のセレツネワから脱出してほしい一心で、エレナはもう戻ってきていると嘘をつく。
そして、これまで頑なに「女王」としてふるまっていたカテナ女王が「女王」を捨て、モニークに対して「母」とふるまう。


見てみると、物語後半で、登場人物たちは、次々と、予定調和を、これまでの役回りを抜け出して、自己を主張し始める。無邪気に、そして残酷にふるまうエレナに影響されたかのように。そこが話の中で一番グッとくる部分だ。人は、やるべきときには自ら動きださなければならない。


さて、エレナの悩みは、人を殺すロボットとしての自分は生きているべきではないのではないか、ということ。そして、同様に恐竜に影響を与え、環境を壊す人類は、セレツネワにいるべきではないのでは、という問いかけ。言うまでもなく、これは実際の地球と人類の関係にも当てはまる。さらに、ロボットにとって、そして人間にとって「記憶」が持つ意味を問いかける終盤の展開と合わせて、なかなか大きなテーマで読み応えがある。
しかし、あとで知ったことだが、エレナとジャックの物語は一作では終わらないシリーズもの*3ということで、2人の関係(天竜など)に謎が残ることもあり、エレナの悩みについては、イマイチ素直に感動できなかったのも確かだ。
ということで、やはり、この漫画の一番のポイントはモニークだったなあ、と読後に振り返りました。モヤモヤした部分を取り除くために、シリーズの作品は読んでみたい。

ミルキーウェイ (白泉社文庫)

ミルキーウェイ (白泉社文庫)

天使たちの進化論 (白泉社文庫)

天使たちの進化論 (白泉社文庫)


さて、地球に似た惑星を訪れて、その惑星の危機に立ち会う話と見れば、ちょうど本日、生誕100年前の誕生日を迎えたドラえもんの映画にそのまま持って行けそうだ。セレツネワには、宇宙開拓使のように時空のねじれで偶然に平行世界につながったことにして、エレナ役をマスコットキャラ的なゲストに変えて…と考えたのだが、いやいや、ちょっと待て!恐竜、隕石、絶滅、女王…
これは『のび太と竜の騎士』が近いかも。すっかり内容を忘れてしまったが、傑作との呼び声高く、自分もかなりの満足度を得た覚えがある。(でも忘れる)
これは見直すぞ!

参考(過去日記)

それにしても、恐竜と人間が共存する世界というのは、「絵」として誰もが書いてみたくなるシチュエーションなんだろうな。

*1:吉田秋生BANANA FISH』、樹なつみ『OZ』等

*2:BANANA FISH』が面白いのはアッシュよりも英二の人間的魅力によると思う

*3:参考:Wikipedia−ジャック&エレナシリーズ