Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

ダースベイダーは君に語りかける〜演劇「君はダースベイダー」感想

中学時代の友人が出演している演劇「君はダースベイダー」を見に行った。
誘ってくれたその友人とは最近になって20年ぶりくらいにfacebookがきっかけで繋がり、そのお蔭で今回のような機会を得ることもできた。
普段「いろいろダダ漏れにされそうで怖い」と思うことが多いfacebookだが、このことについては本当に感謝している。


さて、観劇自体がほとんど初めての体験で、演劇というものは頭をひねりながら見るものではないかという偏見を持っていた。しかし、予想を裏切って分かりやすい内容で、さらに、(映画やテレビなんかを含めてよく泣く自分だが)久しぶりに終わった後も「思い出し泣き」を繰り返す感動体験となった。

(あらすじ)
極道一家を背負う運命の女子高生、西九条美鶴。敷かれたレールの上を進む人生はゴメンだ!
と、ある日突然学校を辞め家を飛び出す。そしてひょんな事から曙探偵事務所で探偵見習いとして働く事になる。そんなある日美鶴はホームレス達と出会う。人生に疲れ、諦め、どん底の暮らしに満足しダースベイダーとなった大人達に美鶴が吠える。ひっしこいて生きてみろ!
〜駄men's倶楽部  「君はダースベイダー」

作品のメッセージ

作品のメッセージを、作品中の言葉を使わずに、できるだけ短い言葉で表現すれば「でも頑張れ」。
シンプルなメッセージが心に響く内容で、待ち時間、オープニングとエンディングにしつこくかかっていたサンボマスターの曲が、感動に輪をかけた。


全体を思い返すと要所要所で都合が良すぎる展開があり、余命数か月の父親、新しい命の誕生、親子の確執、兄弟の和解、夫婦の信頼、卒業式、これでもかというほどのあざとい設定にもかかわらず、エンディングでは、素直に感動できる。しかも冒頭に挙げたシンプルなメッセージが誰の胸にも届いてくる、本当によくできた話だった。


タイトルの「ダースベイダー」は暗黒面の象徴。世の中の大概の人は、夢を心の奥に閉じ込めたまま「自分だけで精一杯」を生きている。
物語の登場人物も、皆が何かを諦めている人たちばかり。
「諦めないで。」が心に響かない人たちだ。
しかし、落ち込んで嘆いてばかりいることは何も生まない。
サンボマスターで最も売れたシングルは、ドラマの主題歌でもあった『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』だが、その中で一番熱くなれる歌詞はブリッジ部分のこの部分。

悲しみで花が咲くものか
サンボマスター世界はそれを愛と呼ぶんだぜ』)

そう、そこからは何も始まらない。


実際には、辛い状況から脱出するためには、各人各様の個別具体的な方法があり、誰にでも効く処方箋はないけれど、スタートを切るためのエネルギーは、もっと根源的で、誰もが必要としているものだ。

僕らが望むのは 後ろ向きのこの日々を微かに変える そんな力
サンボマスター『美しき人間の日々』)

作品の中では、「そんな力」を「笑顔」だとしている。
これ自体は、使い古しのつまらない言葉なんだけど、劇中では「笑顔、笑顔。笑顔の向こうに希望がある」としつこく繰り返される中で、見ている者の心を次第に掴んでいく。

なぜ届くのか

一見陳腐に見えるメッセージが何故届くのか。
これには3つの理由があると思う。


一つ目は「笑顔」の対極として「まこっている」状態について説明されていること。
これは劇中キャラクター(先生)の独自の用語で眉間に皺を寄せて難しい顔をした状態のことを言い、やはり「まこっていてはダメ」と繰り返し使われる。
自分なんかは、大体「まこっている」ので、身につまされるが、単なる「笑顔」だとフワフワした語感ばかりが宙に浮いてしまうが、「まこっている」の逆なんだと考えると、かなり「笑顔」が具体的な状態がイメージになってくる。


二つ目は、正論を言う人が滑稽だったり、はみ出していればいるほど、言葉が届く、伝わるという逆説。
サンボマスターは、歌詞がいいという単純な理由ではなく、伝える山口隆の喋り方が面白く、いい意味で鬼気迫るものがあるからこそ、言葉が届く。
今回の劇も、先生をはじめほとんどの登場人物の行動は支離滅裂で、コメディ部分でさんざん笑えるからこそ、言葉が届く。
「緊張の緩和」が笑いを生むというのは桂枝雀の落語理論だが、反対に、笑いによる緩和が、緊張感を伴うような真摯なメッセージを届きやすくするのだろう。


そして最後に、二つ目と重なる部分もあるが、今回の劇が一所懸命さが伝わるスタイルであったことだ。
舞台道具がほとんど何もなかったことが、役者の方たちの表現へのエネルギーが直接的に(燃費よく)伝わってくる。
サンボマスターが、スリーピースのシンプルなバンドサウンドだから伝わってくるのと似ている。


サンボマスターは、歌で「あなた」へ向かって呼びかけ、「あなた」に向かって語りかける。
劇のエンディングで流れてくる「美しき人間の日々」*1も以下のような歌詞で聴く側のこれまでの人生を掘り返す。

過去をひもとけばいろんな事柄が あなたの前にもあったでしょうよ
だけどもこの先は素晴らしい日々だけ 残っているようなそんな気がして

「でも頑張れ」は、がむしゃらにということではなく、また、嫌なことから目を背けてということでもなく、“暗黒面”と向き合った上で、進むべき方向を見極め、そして一歩を踏み出すということ。
サンボマスターの楽曲と同様、『君はダースベイダー』という演劇も、その「一歩」を後押ししてくれる素晴らしい作品だった。
他人の発した言葉が伝わるのは、それを自分の身に置き換えて考えるからに他ならない。
舞台全体が語りかけてくるようなエネルギーを受け、誰のものでもない自分の人生を生きて行くための力をもらったような気がします。


*1:もしかしたら「これで自由になったのだ」だったかも…