Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

夢と努力を支えるものとは〜佐藤真海『とぶ!夢に向かって』

佐藤真海選手は20歳のとき骨肉腫のため右足下切断。義足となり希望を見失うが、大好きなスポーツを通して再び生きる力を取り戻す。陸上走り幅跳びで、アテネ、北京、ロンドンと3大会のパラリンピックに連続出場した真海選手の命の輝きがほとばしる物語!

いくつか読んだ児童書の中でもかなり得るものがあった一冊。


職業作家ではなく佐藤真海さん本人が書いているが、文章も構成も非常に巧いと思う。
著作を見ると、2004年から何度も本を出しているので、その中で磨かれ てきた部分があるのかもしれない。児童書だからという部分はあるにしても、ノ ンストップで読むことができた。(よう太にも読ませたが、忌み嫌うスポーツを 題材にしている本にしては、一気読みしていたので、年齢を問わず惹きつけるも のがある文章だと思う)


オリンピックも含め、それほど熱心なスポーツ観戦者でない自分は、彼女のことを知るのは初めてだったので、完全に無知の状態から読むことになった。
そのため、読み進めていくと、いくつか予想していなかった点があり驚いた。


冒頭にパラリンピックのエピソードが出された後、本の中では、生まれた気仙沼市に生まれた頃から人生を遡るが、まず意外だったのは、ずっと陸上競技を続けてきたのではないということ。
スポーツ好きなのは子供の頃から一貫しているが、小学校のとき、ほとんど体罰といわれてもおかしくないようなシゴキを受けながら続けた水泳は卒業と同時にやめて、中学校からは陸上競技に専念する。
その後、仙台育英高校では特別進学コースで勉強を頑張り、早稲田大学に入学後、チアリーディング部に入る。
小学校からずっと陸上を続けてきた人なのかと思っていたので、この流れは、少し驚いたが、小学校のときから染みついた「目標に向けて地道な努力を続ける」という生き方が、この後の絶望からの這い上がり、そしてパラリンピックでの活躍に繋がっている。


そして、早稲田大学のチアリーディング部に在籍中に右足を切断しなくてはならないことになる。
ここで意外だったのは、(事故によるものと思い込んでいたが)下肢切断の理由が骨肉腫(癌)であるという点。、
映画にもなった「ソウルサーファー」しかり、事故が理由であれば、気持ちの切り替えがしやすいと想像するが、病気の場合はそうではない。
まず、病気が判明してから切断するかどうかの判断が自分に委ねられていたことは、手術前は勿論、実際の手術後も、自分の意思でそれを選んだ分だけ悩みは大きかっただろう。
そして、何より抗がん剤治療という、癌との戦い。脱毛などの、目に見える衰えは勿論、病室仲間の病気の進行など、信じられないほどのプレッシャーがあったに違いなく、退院後に、不安と悲しさで落ち込む様子には(おそらくかなり抑えた表現になっているのだろうが)強く心を打たれた。


暗闇から抜け出すためにスポーツに打ち込むことを選び、あれよあれよと言う間にアテネパラリンピックに出場を決めてしまうあたりは、身体能力的部分は当然だが、精神的な強さと、設定した目標に向けた努力ができるという才能によるところは無視できない。
大学卒業後、サントリーに入社し、文武両道で仕事にも精を出しながら、さらに早稲田大学の大学院(桑田真澄と同じ平田竹男研究室!)で論文を書き、優秀論文賞ももらっている。ひたすらに努力の賜物だとしか言いようがない。


2011年の東北大震災では、海の近くにあった彼女の実家(気仙沼)は、一階が浸水するなど大変な被害にあったそうだ。(家族は無事)
しかし、このような「震災」「闘病」「義足」「パラリンピック」などの要素を取り除いたとしても、やはり胸を打つような物語が残ると思う。
ひとつは、仲間の存在。闘病生活を支えたのは、本人の強い心だけではなく、チアリーディングや大学の仲間、そして病室の仲間だった。生きたいと思う気持ちは、仲間がいるからこそ。ちょうど、この本を読んだよう太には、そのことを念押しして伝えておきたい。


そしてもう一つは、母のアドバイス

神様はね、その人に乗り越えられない試練はあたえないのよ。

入院前に、そう言ってくれた母の言葉が、その後、真海さんを何度も救うことになった。言葉が人を救う、というよりは、強く信じている相手の言葉だからこそなのだろう。



佐藤真海さんの物語は、ひとことでいえば 「信じれば夢はかなう」という、お決まりのストーリーであるのかもしれない。
しかし、自分の復活を、活躍を待ってくれている仲間、ともに夢をかなえようと協力する仲間、そして、誰よりも自分のことを愛してくれる肉親がいてこそ、夢を信じて努力を続けることができるという重要な真実が、その「お決まりのストーリー」の背後にある。そのことが、この本を読んで強く伝わってきた。
そして、彼女を通して、“健康な自分”をまた振り返り、「努力」していくことを、何より大切にしたいと感じた。

まだ見ぬ結果を楽しみにすると、努力する時間も楽しめるようになっていきます。「楽しむ」というのは楽ちんだということではなく、つらいこともふくめて、目標達成の過程とその成長を楽しむということです。p127

参考

→本人によるブログ。ロンドンオリンピックの記録は4m70でしたが、最近5m越えをしたとのこと。凄い。

ロンドンパラリンピック前の記事。

→さらに遡って2004年の取材記事。彼女の努力する姿勢が変わらないのが凄い。

参考(過去日記)

佐藤真海さんの恩師である平田竹男さんとの共著『野球を学問する』についても触れています。