- 作者: 椎名誠
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2014/02/21
- メディア: 単行本
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自分にはアウトドアの趣味がない。アウトドアが嫌いなわけではなく興味や憧れはあるのだが、何となく触れるきっかけがなく、そのままにしてこれまで生きてきてしまった。だから椎名誠に感じる気持ちは、嫉妬に近いのかもしれない。
また、「世界中のこんなところを見てきた」→「だから日本のこんなところはおかしいよね」「環境問題はもっと真面目に取り組まなくちゃいけないよね」という素朴な論理展開は、あまり好きではない。世界中の色々なものを見てきたような人物に対して、素人は「いや、そうは言っても…」と反論できない。だからこそ、椎名誠のようなエコロジーな人は、もっと緻密に論理を組み立ててほしい。
勿論、直観的な論理こそが、こういうタイプの人の言葉の魅力だというのは分かる。しかし、例えば、今話題となっている『美味しんぼ』が展開している原発批判は、論理よりも、直観を過大に信頼することで成立している。
言葉の強い人は影響力が大きいので、特に慎重にした方が良いと感じている。
とはいえ、今回読んだ『アイスプラネット』は、(勿論児童向けということもあり)それほど引っ掛かるところもなく、非常に読みやすかった。それには、登場人物の関係性も影響しているだろう。
中学生の「僕」は、家にいそうろうしている38歳のおじさんに、世界の各地で見てきたいろいろな話を聞かされる。ほら話としか思えない、とんでもない話ばかりだが、半信半疑のぼくに、最後には証拠の写真を見せてくれる--。
ぐうちゃんは、旅人であり、写真家でもある著者の姿でもある。掲載されている写真も椎名氏自身が撮ったものであり、小説形式のノンフィクションといえる。
中学2年生用の国語教科書(光村図書)に2012年度より掲載されている「アイスプラネット」と登場人物は同じで、続編にあたる。日本の暮らしに慣れた読者が、あたりまえと思っている常識の数々をひっくり返す一冊。
巻末あとがきに書かれているよう、この2人の役回りは、吉野源三郎『君たちはどう生きるか』に着想を得ているとのことだ。
椎名誠が読者に直接訴えるのではなく、椎名誠的な「ぐうちゃん」の言葉を、一度、主人公の悠太(僕)を通して受け取る構造になっているから、押し付けがましくない。
特に面白かったのは、一本足の生き物からクイズ形式で100本足の生物までを言い当てて行く「生物の足の数くらべ」(p92)や、地球の水の起源は彗星(ハートレー彗星)にある*1から、それを捕まえて地球の水を綺麗なものに入れ替えるという「彗星いけどり作戦」(p82)の話。
そして、日本は食べる肉は種類が少ない「食肉後進国」だという話は、ちょうど、遊牧民族の暮らしを綴った漫画『乙嫁語り』を読み始めたところだったので、イメージしやすく納得しやすい話だった。
とくに思うのは、世界中で羊を食べていることです。安くて栄養があるからでしょうね。羊を食べない国はもしかすると日本だけかもしれない、なんて印象をもちましたね。(p143 ぐうちゃんの話)
ここで、モンゴルの話も出てくるが、モンゴルではどうもジンギスカンにあたる料理はないらしく、ジンギスカンは「日本人だけが食べているモンゴル料理」ということのようだ。
全体を通して、日本の暮らしを見直すヒントとなり、相対的な視点を得られるという意味で、大人にも勿論、特に小中学生にはとても良い教材になっていると思った。
食肉の話は少し掘り下げて他の関連本も読んでみたい。
うまい肉の科学 牛・豚・鶏・羊・猪・鹿・馬まで肉好きなら読まずにはいられない! (サイエンス・アイ新書)
- 作者: 肉食研究会,成瀬宇平
- 出版社/メーカー: SBクリエイティブ
- 発売日: 2012/09/15
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*1:コチラのニュースなど>地球の水は彗星から? 彗星の中に地球と同じ組成の水を発見