Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

一筋縄ではいかない、でも魅力に満ちた林業生活〜三浦しをん『神去なあなあ日常』

神去なあなあ日常 (徳間文庫)

神去なあなあ日常 (徳間文庫)

春先に、いくつかの映画を見る際に、予告編が面白そうだった『WOOD JOB』。
原作小説があるということを知ったのはごく最近ですが、主演の染谷将太もドラマ「みんなエスパーだよ!」を数回見て気になっていたし、つい先日、ラジオ番組で矢口史靖監督のインタビューなども聞きかじり、個人的に盛り上がりの波が来ていたところで、偶然図書館の返却棚でこの本を見つけ、これは「読め」ということだな、と悟りました。
実は三浦しをんさんの小説を読むのは初めて。エンタメか純文学かで言うと、純文学寄り(=自分に遠い)だろうという推測の結果、いつも最後の一押しで躊躇ってしまっていたので、今回の映画化はちょうど良い機会でした。

高校卒業と同時に平野勇気が放り込まれた、三重県の山奥にある・神去(かむさり)村。林業に従事し、自然を相手に生きてきた人々との出会い、チェーンソー片手に山仕事。先輩の鉄拳、ダニやヒルの襲来、しかも村には秘密があって・・・!? 林業に《ゆるーく》かける青春!


物語は、主人公である平野勇気の視点で、一年間を振り返る日記的文章として語られていきます。
小出しにされながら祭り当日までその全容が書かれることのない「オオヤマヅミさんの祭り」は大迫力のクライマックス。しかし、それまでは淡々と神去村の村人と生活、自然と季節の変化について綴られます。その中で、勇気が、直紀さんという年上の女性を好きになっていく気持ちの変化も、やはりドラマチックというよりは淡々と書かれます。
タイトルにもある「なあなあ」は村人たちの口癖で、「ゆっくり行こう」「まあ、落ち着け」というようなニュアンスを持った言葉で、物語の進み方も、まさに「なあなあ」。それだからか、「神隠し」や「山鳴り」、そして「赤い着物と白い着物を着たオオヤマヅミの神様」など、非科学的な現象についても、深い追究は無く、起きて当然のことのようにしてサラッと流されます。
そうした自然や神さまと渾然一体となった時間の流れ方が、この小説を支配しているようで、伏線の張り巡らされたエンタメ小説のように「せっかち」ではなく、全体的に「のんびり」とした物語でした。


ただ、ロハス的な里山体験記に終わらせず、神去村での「現実的な生活」が描かれていると思うのは、例えば、杉とヒノキで覆われた村では避けることのできない花粉症と多くの村人が戦っている描写。最初は大丈夫だった勇気も、山に地震が起きた時に、ついに花粉症を発症してしまいます。発症直前の勇気の感覚も面白いです。

ドーンと重く山が鳴り、鳥が姿を見せないままけたたましく囀った。斜面の木が激しく梢を揺らし、杉の花粉が豪雪地帯をかくやとばかりにいっせいに降り注ぐ。
ふ、腐海
俺は思わず、ナウシカを連想した。「午後の胞子を飛ばしている…」ってやつだ。こんな幻想的な光景に、まさか現実でお目にかかれるとは思ってなかった。(p106)


また、繰り返しになりますが、物語の中でも「ネタバレ」を避けるように、ひた隠しにされる秋の祭りは、かなり迫力のあるもので、『WOOD JOB』の矢口史靖監督が映画化したがったのも分かります。一方で、三浦しをんさん本人は、(映画化が決まる前に)この小説について、「いやこれは無理だろうと」「また映像化できないダメな小説を書いてしまいました」なんて書いているのも面白いです。(特設サイト特集その1:著者インタビュー*1



さて、映像化と言う意味では、自分は、結構小説の文章だけで映像を思い浮かべるのは苦手な方で、例えば「昇柱器」の説明も何度も読み直してしまいました。

上のように動画で見れば一目瞭然なのですが、文章だけだとかなり頓珍漢なイメージを持ってしまっていることがあります。その意味で本全体の内容を正しく把握できているのか不安もあり、補う上でも映画は見てみたいですね。
キャストを見ると、主演の染谷将太は勿論、勇気が思いを寄せる直紀役の長澤まさみ、そして勇気を指導するヨキの伊藤英明と、その妻を演じる優香まで、主演4人はイメージ通りのパーフェクトな配役です。そして祭りシーンをどのように見せているのか、についてもとても気になります。


何とか行ってみたいけど、祭りの部分とかは(下ネタ的理由で)子どもには説明しづらそうだし、そもそも、自分は『アナと雪の女王』を見ていないので、それに比べると優先度は落ちてしまうかもしれません。でもDVDでは必ず見ます!
小説の続編も楽しみです。

神去なあなあ夜話

神去なあなあ夜話


あと、ずっと気になっていた林業をテーマにした児童書も読んでみようと思います。

林業少年

林業少年

*1:読んで初めて知りましたが、この話は取材によって出来た部分も多いにしろ、原点は、三重で林業を営んでいた三浦しをんさんのお祖父さんにあるみたいですね。