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見応え抜群の大陸移動説の逆転劇〜藤岡換太郎『山はどうしてできるのか』

山はどうしてできるのか―ダイナミックな地球科学入門 (ブルーバックス)

山はどうしてできるのか―ダイナミックな地球科学入門 (ブルーバックス)

平成8年から祝日となった7月の「海の日」に遅れること20年弱、来年からは「山の日」(8月11日)という新しい祝日ができるという。
だからというのは全くのこじつけだが、ブルーバックスも「海」を読んだら「山」も読もう、ということで読み始めたこの本。
大陸移動の話など、『海はどうしてできたのか』と重なるテーマも多いが、それほど内容の重なりは意識せずに読むことができた。
今回は、地球カレンダーではなく、理解のレベルに応じて、一合目、二合目と進み、最後に頂上に立って全体を見渡すというつくりになっている。言ってしまえば、前半部は、全体を理解するための基礎的な内容なので、『海は〜』よりは、「お勉強」的要素が多く、そういうものが苦手な人には読みづらいかもしれない。
ただ、じっくり読み進めただけあって、久しぶりに「読み切った」感のある読書となった。特に島弧−海溝−背弧系(例えば東北日本弧−日本海溝日本海等の組合せの地形のパターンを指す)の詳しい解説は、今までぼんやりとしたプレートのイメージしか持っていなかった自分にとって、気象学でいう「前線」的な構造をした立体的なプレートのイメージを持つことができ、これまでより理解が深まった。
小沢健二のアルバム『我ら、時』の朗読の中に以下のような一説があるが、太平洋の西側において、弓型に張り出した島状の地形(島弧)の上に火山が並ぶのは、プレートテクトニクスと、プルームテクトニクスからある程度説明がつく話だというのが、この本を読むとよく分かる。

太平洋の島々は、どれも似ている。
北海道も、サハリンも、フィリピンも、ボルネオも、
本州も、九州も、台湾も、
地図で見かけた角度から
ちょっと回転させたら、見分けがつかない。


さて、本書のタイトル「山はどうしてできるのか」は、古くから論争が続いてきたテーマで、プレート・テクトニクスやプルーム・テクトニクスという現在の知見に辿り着いたのはつい最近のことのようだ。この辺りの「仮説」同士を戦わせる議論の様子は本当に面白い。

  • 19世紀末には「山は水平運動によってできた」と考える”地球収縮説”が台頭。それを打ち破った「山は水平運動によってできた」と考える”地向斜造山運動論”が1970年代まで幅を利かせた。
  • ルフレッド・ウェゲナーの「大陸移動説」は1912年に発表されても、否定的に捉えられ支持を得られなかった。大陸移動説の証拠を求めて旅立ったグリーンランドでウェゲナーは死んでしまう。大陸を動かす力が何なのかを上手に説明できなかったことが大きな問題だった。
  • その後、アーサー・ホームズが「マントル対流説」を1949年に発表し、大陸を動かす「力」はマントル対流であることを示すも、この時点では、「大陸移動説」は既に下火となっていた。
  • 1950年代に入り、地球の磁気の研究が活発になる。研究が進むと、磁鉄鉱という鉱物は過去の地球の磁北極を記録するが、ヨーロッパの磁鉄鉱アメリカの磁鉄鉱では、極移動の軌跡が異なるという謎が出てきた。また火山岩はそれが形成されたときの緯度を記録するが、デカン高原にある古い時代の玄武岩の緯度は南であることが分かり、しかも時代とともに北に移動していることが分かった。
  • これらの謎を解決するのがウェゲナーの大陸移動説とホームズのマントル対流説で、大陸移動説が見直されるきっかけとなった。
  • また、1950年代は海洋底の研究が盛んとなり、大西洋の海底地形の観測から、1961−1962年に、海洋底は拡大し、移動して、やがて消滅するという「海洋底拡大説」が登場した。
  • 1967−1968年にプレートテクトニクスという考えが、地震の研究者の中から生まれた。世界中の地震の分布が、海嶺、海溝、トランスフォーム断層という弱い部分に限られ、それ以外の剛体的な部分をプレートと呼ぶことにしたのだった。
  • 地球表層の現象を説明したプレートテクトニクスに対して、地球深部の現象を説明すべく1990年代に登場したのがプルームテクトニクス。プレートを動かすのは、マントルの中の温度差による対流。プルームテクトニクスでは、対流を引き起こす巨大な煙のようなプルームで、マントルの中を移動する高温のホットプルーム(上昇)と低温のコールドプルーム(下降)が地球科学的な活動を支配していると考える。


大陸移動説を初めて知ったのは、確か国語の教科書だったと思う。このような大発見は、すぐに世界に広まったのだろうと思い込んでいたが、発見者ウェゲナーの死後20年以上経った1950年代になってやっとメジャーな考え方になってきたというのには驚いた。そして、ウェゲナーの「仮説」を裏付けるものが、地磁気地震、そして海洋底の研究など、様々な分野から上がってくるのは痛快だ。
マントル対流については、楳図かずお『14歳』では、そのエネルギーで廃棄物処理を行なう未来が描かれ、手塚治虫の『火の鳥2772』では、「地球に残された最後のエネルギー」としてピックアップされていた。どちらも開けてはならない「パンドラの箱」というイメージで出てきたように思うが、ここ半世紀の地球科学の進歩を見ると、あながちそういった未来(地球内部のエネルギーを積極的に利用する未来)も嘘では無いのかもしれない。
自然エネルギーの話の中で、特に日本に血の利があると言われることの多い地熱エネルギーだが、何とか現実的な話になって欲しい。パンドラの箱は開けてほしくないが…。


その他メモ。

  • 海洋底が世界で最も速い拡大をしているのは、南緯13度から20度までの東太平洋。その速度は年間15cmで、爪の伸びる速さと同じくらい。(p92)
  • 海洋プレートの上部は主に玄武岩、陸のプレートの上部は主に花崗岩で、海洋プレートの方が陸のプレートより重いために沈み込む。(p100など)
  • 深海底にあるはずの中央海嶺が、例外的に地表に出ているのがアイスランド、プレートが出来る国、いわば「板いずる国」。日本が「板没する国」なのとは対照的。(p105)
  • ダイヤモンドは地下200?もの深さから上がってくるが、ゆっくり上がれば全て炭(石墨:グラファイト)になってしまう。そうならないためにはものすごい速度(一説にはマッハ2)で上がる必要(p178)
  • 日本海溝に沈み込む太平洋プレートは1万2000km離れた東太平洋沖海嶺で生まれ、1億年いじょうかけて日本列島まで移動してきた。(p202)
  • 琉球で知られている最大の津波は高さ85mだったという説もある。(p209)