Yondaful Days!

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ギリシャ戦、コロンビア戦の予習に!〜福西崇史『こう観ればサッカーは0-0でも面白い 「戦術」と「個の力」を知的に読み解く』

初戦のコートジボワール戦でまさかの敗退。
基本的には引き分け、あわよくば勝利と思っていたが、終わってみれば1-2で、内容的にも厳しいものだった。特に、後半途中から入ったドログバの圧倒的な存在感が大きく、彼一人が入るだけでそれまでとは全く異なる空気感が生まれ、日本は最後まで嫌な空気を払拭できなかった。
圧倒的な「個の力」を感じてなお、日本は世界の中でどう戦って行けるのか、それを確認するためにもオススメなのがこの本。*1



タイトルにも挙げられている「戦術」と「個の力」の融合、そして「ボランチ」の役割について、日本・世界のサッカーのトレンドを俯瞰しながら学ぶことができる本。
全体を通して、福西崇史のサッカー人生、特に、常勝と言われたジュビロ磐田時代や日本代表での経験を踏まえて語られており、評論家が書いたのとは違う、「現場」の雰囲気に溢れている。
構成も非常に分かりやすく、冒頭で挙げたサッカーを観るときの3つのポイント「ボランチ」「戦術」「個の力」をそれぞれ第1章〜第3章で章ごとに具体例を挙げて説明した上で、第4章では、それらの融合の必要性が示される。それぞれについて挙げられている主なチームやプレーヤーは以下の通り。

これらを踏まえて、第5章で、ザック・ジャパンの戦術をじっくりと書くという内容になっている。


印象的なのは、「走らないドゥンガ」の圧倒的な存在感から得たボランチの務め方。福西は、ドゥンガとコンビを組んで2年目の1996からジュビロが初の王座に輝く1997にかけて、「走ること」「走らないこと」の意味が理解できたという。
重要なのは「必要なときに必要な量だけ走ること」、つまり「走る必要がないときには走らない」「自分が走らなくても済むように工夫をする」ことが重要で、「走ること」の負担を「考えて走ること」でカバーしていたのが「走らないドゥンガ」であり、それが、体力的な部分で弱点を持っていた福西の確立しようとしていたボランチ像だった。(p38)
一方で、トルシエ・ジャパン(初招集は1999年)のフラット3は、ラインの上げ下げのためにボランチの選手にも走ることを強いるもので、自身のスタイルとは合わない戦術だったようだ。(p86)そんなトルシエ・ジャパンがベスト16を達成できたのは、トルシエに対する選手たちの反発心が結束力に変わったことが一因として大きいという分析も面白い。
また、この本では「ストロングポイント」という言い方で、組織のための個人の長所の重要性が繰り返し書かれるが、福西自身は柔軟性とバネ(身体能力)というストロングポイントと合わせて、体力という弱点に常に意識的である。藤田俊哉奥大介を攻撃的MFに、服部年宏福西崇史ボランチに置き、真ん中に名波浩が入るジュビロ磐田のNボックスと呼ばれたシステムでは、服部、福西の体力の差から両サイドで守備の仕方が全く異なるものになっていたという。(左サイドのスペースは服部が潰すが、右サイドのスペースはサイドバック鈴木秀人が担当し、福西はそのカバーの役目)
福西は「個の力」について以下のようにまとめている。この本は、直接的にはビジネス本ではないが、福西も何度か言及しているように、会社などの組織論として読める部分が多くあり、引用部は、サッカーの話から離れた読み方をした。

個の能力による成功体験の積み重ねは、相手の組織を打ち破る武器となります。グラウンドにいくつもある「たられば」を実現する個の能力こそが、そのチームにゴールをもたらし、勝利を手繰り寄せる”可能性”になるのです。
くり返しになりますが、個の力が高さや強さ、速さやうまさといった目で見てわかりやすい能力だけではないことも、ぜひ頭に入れておいてください。
僕のように、決してトップクラスのテクニックをもたない選手でも、チームのために役立つストロングポイントがあり、それを活かす術を知っていれば、日本代表のユニフォームを着ることは不可能ではありません。
p137


3つのポイントの中では「ボランチ」が浮いているようにも感じられるが、実際に、この本の大きな目的であり、タイトルにも掲げられている「0-0でも面白い」サッカーの観戦方法を実現するには「ボランチ」が鍵になる。「戦術」や「個と組織の融合」という最重要ポイントは、観戦の中で理解するのは難しいからだ。
日本代表の初戦でボランチの位置に入ったのは長谷部誠(途中から遠藤)と山口蛍。山口はドログバに当たることも多かったが、それほど相手のプレッシャーとはならず、ドログバに好きなようにさせてしまったところに敗因があるのかもしれない。
残る2戦のうち、特にギリシャ戦は、まさに「絶対に負けられない戦い」。ボランチもそうだが、初戦にピークを作ることができなかった本田圭佑香川真司に特に期待したい。

*1:ちょうどはてなダイアリーでの今週のお題「サッカー」にも対応。