- 作者: 洋泉社編集部編
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2014/03/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
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何故かと言えば、冒頭に、冲方丁と鈴木一義(国立科学博物館理工学研究部科学技術史グループ長)の特別対談「渋川春海から学ぼう」がカラー写真満載で載っているから。当然、本編の内容にも絡んでくる部分が多い、ということで、今さらながら『天地明察』(江戸時代の天文家・渋川春海の生涯を描いた小説)を読んでおけば良かったと後悔。
日本初のオリジナルの暦、世界最高水準の地図、世界初の全身麻酔手術、エレキテル、からくり…世界をアッと言わせた江戸のチカラの数々!江戸時代の科学技術の実力は世界水準を超えていた!
章ごとに、天文暦学、測量術、医学、和算、発明と分けられた中で特に興味を持ったのは天文暦学と和算。
天文暦学については、当初、暦づくりには、正確さや科学的裏付けよりも吉凶が重視され、陰陽師の流れをくむ朝廷側の人たちがそれを行なっていたというのが面白い。そのため、渋川春海考案の貞享暦まで、日本では800年以上も合わさない暦を使い続けたという。
その後の流れも、中国由来がいいか、日本独自がいいか、西洋由来の最新のものがいいか、という派閥争いのようなかたちで暦が変わって行っているように見える。
- 862〜 宣明(せんみょう)暦 中国よりもたらされ800年以上続いたが狂いが大きくなり日食の予測を外すことが多くなった。
- 1685〜 貞享(じょうきょう)暦 予測精度の高い中国の授時暦を京都を基準に計算し直した日本初の独自の暦。渋川春海が考案したものであり、そのため、編纂の中心が朝廷から幕府に移ったのが特徴。
- 1754〜 宝暦(ほうれき)暦 徳川吉宗は中国由来ではなく西洋天文暦学による改暦にこだわり、これが反映されたもの。しかし、この頃、幕府は人材に乏しく、朝廷側が作暦の主導権を握るも、西洋天文学には詳しくなく、かなり不出来なものとなった。
- 1798〜 寛政(かんせい)暦 西洋天文学を取り入れた初の暦。高橋至時と間重富が作暦の中心人物。
- 1844〜 天保(てんぽう)暦 寛政暦の問題点改善のため、フランスの天文学の大著『ラランデ暦書』の理論を取り入れて完成させた暦。高橋の二男・渋川景佑による。
- 1873〜 これまでの太陰太陽暦を改め、太陽暦のグレゴリオ暦に変更。
以前、浅田次郎の『五郎治殿御始末』に収められた短編も、改暦に絡んだ話でとても面白いと薦められた覚えがあるので、『天地明察』と合わせて読んでみたい。
- 作者: 浅田次郎
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- 発売日: 2014/05/23
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和算についてはやはり、その特殊性、特に和算書のベストセラー『塵劫記』(パズル的な問題が多い)の普及に関する部分が面白い。
江戸時代を通じて、大名から庶民にいたる日本中の人々が『塵劫記』(とそれに類する和算書)を手に、初歩的な数学を学んだのだ。
同時に、この『塵劫記』の普及によって、和算の研究に取り組む人も増えていった。和算研究には、西洋の数学には見られない、ふたつの大きな特徴があった。
ひとつは、ある一人の研究者が和算の問題を出すと、ほかの人が解答を編み出し、さらに新しい問題を提出する。するとまたほかの人が研鑽を積んで解答を見つける……という、クイズのように問題と解答をリレーしてゆく「遺題継承」の習慣である。もうひとつの特徴は、数学の新しい問題を編み出すと、これを、絵馬を巨大にしたような「算額」と呼ばれる額に、美麗な図入りで書き出し、神社に奉納する「算額奉納」という独特の習慣である。p139
ちょうど今、流行っている、謎解きや脱出ゲーム系の遊びが、沢山の作り手を生みだしているのと、現象的に似ており、江戸時代も今も日本人というのはあまり変わらないのだなあ、と思ってしまった。
なお、ここで取り上げられている「算額」は、道後温泉に行ったとき、近くの神社(伊佐爾波神社( いさにわじんじゃ))で飾られており、珍しかったので写真に撮ったものがある。(2013年3月撮影)
→参考:伊佐爾波神社(Wikipedia)
他にも、全身麻酔を用いた乳がんの摘出手術が1804年(世界初!)に行われたという話(p123)など、興味を引く話はたくさんあった。ということで全体的に面白かったが、やはり何度も取り上げられている渋川春海を知るために、一刻も早く『天地明察』を読まなくてはなあ…という、改めてその決意を固めたのでした。
- 作者: 冲方丁
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