Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

可愛い異形〜弐瓶勉『シドニアの騎士』全15巻


(ネタバレあります)



終わってしまえば呆気なかったけど、結局のところ、この物語はシドニアの行方・人類の未来よりも、谷風長道の恋愛の話だったのだなあということを再確認するラストだった。
自分が、この物語を飽きずに最終巻まで読み進めることができたのは、第一にシドニアという世界の箱庭感とメカなどのデザイン、次に、その世界観と表裏一体の絵の巧さがあったからだが、何より最後までやきもきさせられたのは、谷風が、イザナを取るのか、つむぎを取るのかという恋愛の問題。自分は、つむぎ自身が気にしていた通り、大きさの問題があるから、途中までは、最終的にはイザナと上手く行くのではないかと思っていたが、この終わり方が一番しっくりくる。
そして、谷風の女子光合成室の覗き問題や、決して触れてはいけないヒ山さんの外見(クマ)の話など、単純に楽しんで読めるお約束がいくつかあり、ときに悲愴感漂うシドニアの状況の中でのバランスが絶妙だった。しかも最終巻に至ってもこのバランスが変わらないのも良かった。
ストーリーについて言えば、11巻から登場した谷川テルルや13巻で覚醒した融合個体2号「かなた」が、もう少し濃密に物語の展開に関わって来ると思っていたが、やや薄味だったのが残念だった。しかし、それも、谷風とつむぎの物語がメインストーリーだと思えば、そこから離れたキャラクターの出番は少なくて正解だったのかもしれない。


最初に挙げたシドニアという世界の「箱庭感」について言えば、結局それは自分が『千と千尋の神隠し』を好きな理由とも重なるが、レトロ技術による巨大建造物に囲まれた秘密基地的空間がツボだということ、それに尽きる。特に、ディテールに昭和の日本を感じさせる小道具が詰まっているのが嬉しく、10巻で纈(ゆはた)が谷風&イザナ&つむぎの家に一緒に住むことになった回で、導入されたこたつに「これだよ!これ」と思わずガッツポーズになった。


メカやコスチューム、そして途中までの天敵・紅天蛾 (べにすずめ)や融合個体2号かなたなどのデザインについては「カッコいい!」という感想しかないが、舞台のほとんどが宇宙空間にも関わらず、絵的には一番近いのが『風の谷のナウシカ』という、とにかく画面内での白の多さが印象的で、漫画全体としてスタイリッシュ。
そして、やはり、何と言っても、白羽衣つむぎのデザインのカッコ良さ。これほど奇妙な、そして異形のキャラクターにもかかわらず、8巻、12巻、14巻と表紙にも多数登場し、圧倒的な存在感があった。そして何より可愛らしくも見えるという、すごいデザイン。
ストーリーに絡めていうと、確かに、谷風の初恋の相手は星白閑で、最初に谷風がつむぎに惹かれたのは、その先に星白を見ていたからではある。最終的に子ども(女の子)にも一文字とって長閑(のどか)という名前をつけているから、谷風から星白閑への思いが消えることは無かったのかもしれない。しかし、物語が進む中で、谷風が、つむぎの可愛らしさに惹かれて行ったことは間違いなく、あれほど人間的ではないキャラクターでありながら、読者もその魅力が伝わってきた。
だからこその13巻のデートでの名台詞は心に響いた。

人間かどうかなんて関係ないんだ!
そのままでいいんだよ!
大きさなんか大した問題じゃない!
身長差だってたったの15mだ!!
俺はもっとずっと長生きして…
いつか死ぬときが来るまで
できるだけ長い時間
つむぎと一緒に生きていきたい!
俺はつむぎが好きなんだ!!
(13巻第63話「白羽衣つむぎの夢」)


なお、アニメ(http://www.knightsofsidonia.com/)は未見。昨年国立新美術館に見に行った「ニッポンのマンガ*アニメ*ゲーム」展では、アニメーション作製時のCGの利用について細かい解説が書かれてあり、気になっていたので、まずは劇場版から見てみたい。