- 作者: 綾辻行人
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2008/09/30
- メディア: 単行本
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その中でも、この『十角館の殺人』は、綾辻行人の代表作だけあって、とても強く印象に残っているし、「新本格」という言葉が出てくるときに真っ先に思いつく作品でもある。
小学6年生のよう太は、小学校に入る前から名探偵コナンが好きだったので、当然ミステリ好き。少年探偵団シリーズは1年生から読んでおり、ホームズやクリスティの児童向けのものは読んでいる。いずれ自分がよく読んだ新本格も教えてあげようと思っていたが、もしかしたら内容が、ゲームでいうCERO(表現内容による対象年齢制限)のレーティングに引っ掛かるかもしれない、と躊躇していた。
しかし、(小学生に人気のある)はやみねかおる『都会のトム&ソーヤ』のシリーズと同じ講談社のレーベル「YA! ENTERTAINMENT」に、この本が入っていることを知り、それならば、と自分が読み直す前に、先に読んでもらった。
話はずれるが、この「YA! ENTERTAINMENT」レーベルでは、他に田中芳樹『創竜伝』のシリーズが入っている。『十角館の殺人』の表紙は山下和美によるものだが、『創竜伝』は田島昭宇。自分はやはり天野喜孝でないと気持ちが悪いが、これも味があっていい。
『十角館の殺人』は2008年9月で、『創竜伝』は2008年10月から2009年3月にかけて4巻まで出て、いずれも続刊がストップしている。おそらくレーベルの方針が変わってしまい、新作のみを出すことになったのかもしれないが、どちらも面白いシリーズだったので、少し残念だ。
さて、読み終えたよう太の感想は「普通」。
「金田一少年に似てるのがあるよね」などとも言われ、それはそれで納得の感想なのだが、自分は「館」シリーズでは断トツに面白いと記憶していたので、意外だった。
『クラインの壺』を読ませたときも、自分の印象とギャップのある答えが返ってきたが、『クラインの壺』と比べれば、ちゃんと「本格」のツボをついた由緒正しき傑作のはずなのに…と思ってしまった。
これはちゃんと確認せねば、ということでこれまた二十数年ぶりの再読。
読んでみると、自分にはあまりないことだが、トリックをほぼ覚えており、その意味では驚けなかった。
と同時に、よう太がこの小説を評価できない理由がよく分かったのだった。
(以下ネタバレ)
自分が覚えていた十角館のネタは「著名ミステリ作家の名前で呼び合う登場人物の中で、1人だけ、読者が想像していたのと異なる呼び名の人物がいて、”衝撃の一行”で、読者がその誤認(思い込み)に気が付く」というもので、ほぼ正確に覚えていた。
さらに、少し読み進めて、「十角館を訪れている人物ではなく、十角館の外にいる人物が犯人」ということも思い出したが、この2点でほぼ犯人を割り出すことができてしまう。
とにかく、中心のトリックがシンプルだからこそ、印象が強かったのだが、逆に再読には全く向かないと言えるのかもしれない。
さて、この大きな2つのトリックのうち、核となるのは前者だが、実は、このトリックは知識が必要であることに気が付いた。よう太は、その知識がないために、ミスリーディングに乗れないままに、「衝撃の一行」を迎え、「犯人が十角館の外にいた」ということを中心トリックだと思ってしまったらしい。
その知識とは、「怪盗ルパンの作者がモーリス・ルブランであること」なのだが、よう太に聞いたら、ルパンは読んだことが無かったから知らなかったそうだ。
ということで、『十角館の殺人』は、いわゆる叙述トリックものということになるのかもしれないが、叙述トリックに限らず、ミステリの面白さというのは、作中で(主要登場人物)エラリイが手品を披露するように、「読者の思考を誤った方向に進めること(ミスリーディング)」にあるということがよく分かる作品だった。
そして今回のように「素敵に騙される」ためには、ある程度の知識も必要ということかもしれない。
なお、序盤でエラリイが「僕にとってミステリとは、あくまでも知的な遊びの一つ」とミステリ論をぶつが、この「知的」は、知識や頭脳の優劣のことを指しているわけではない、と言う。
僕の云う「知的」とは、遊びに対する態度の問題なんでね。べつにその人間が利口だとかばかだとかいう話じゃない。この世に知性のない人間なんていやしないさ。同じ意味で、遊びを知らない人間もいない。云いたいのは、遊びを知的に行う、との精神的なゆとりが持てるかどうかってこと。
勿論、メイントリックが作品雰囲気(リアリティライン)の中で、浮いてしまうほどファンタジックなものであれば、面白いかどうか以前に作品に集中できない。だから、何より「トリックが浮かない」ことが大切で、ここでいう「精神的なゆとり」というのは、やはりメイントリックの質による、という気もするが。
最後に。
『十角館の殺人』は1987年にノベルス版が出ているということで、来年は「館」シリーズの30周年ということになる。
だから仕方がないのだが、時代性を感じさせる部分もいくつかあった。
例えば、ワープロの扱いについては、その最たるもので、意味が分からず読み直してしまった。
「(略)…ただのいたずらにしては念がはいりすぎてる」
「というと?」
「わざわざ全部、ワープロを使ってますよね。ただのいたずらにワープロまで動員するっていうのは…」
(p72)
そうか…。
普通に考えれば、同一文章の脅迫状を複数枚用意するためにはワープロの方が労力が少なくて済むはずなのに、当時は、ワープロを「動員」するよりは、手書きで脅迫状を書いていたのか…。
また、作中の女性の扱いにも強い違和感を覚える。
殺人事件が起きて、食事の中身(毒)にも気を遣うような状況になっても、女性キャラに食事を作らせたり、コーヒーをいれさせて当然という雰囲気があり、当時と今の感覚の違いがよく分かる。
ということで、30年前なんてつい最近と思いつつも、ちょっとした時代感覚のズレを感じる、まさしく「昭和の時代」の雰囲気も味わえる新本格ムーブメント初期の作品と言えるのかもしれない…と思っていたら、2007年に新装改訂版が出ているので、こちらでは直っているのかも?「YA! ENTERTAINMENT」バージョンは2008年で後発ながら昔のままなのかも…。
『水車館』からは新装版で読み直そう。
- 作者: 綾辻行人
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- 発売日: 2007/10/16
- メディア: 文庫
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- 作者: 綾辻行人
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参考(過去日記)
- 意外性だけがミステリじゃない〜岡嶋二人『クラインの壺』(2016年4月)
⇒よう太に読ませて自分も再読シリーズ第一弾。やっぱり面白かったです。
- 館シリーズファンはとりあえずマスト〜綾辻行人・佐々木倫子『月館の殺人』(2011年1月)
⇒よう太は、こちらはfavoriteな作品で何度も繰り返し読んでいます。