Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

圧倒的な強度とリーダビリティ~山口貴由『シグルイ』

読んだきっかけ

最近、携帯の漫画アプリで漫画を読む習慣がついた。
何故「習慣」がつくかといえば、アプリの仕組みと関係する。色々なアプリがあるが、今使っている「LINEマンガ」と「マンガBANG」で対象作品を無料で読もうとした場合のルールは次の通りだ。

  • LINEマンガ:対象作品は1日1話読める(CMを見ると追加で見ることのできる作品もある)
  • マンガBANG:対象作品は、7時と19時に付与されるメダルで4話ずつ見ることができる。それ以外にCMを見ると5話追加で見ることができる。

したがってマンガBANGでは、1日に1巻程度のマンガを読み進めることができるのだが、それぞれ持ち越しができないので、出来るだけ無料で読んでやろうという浅ましさから、追われるようにしてマンガを読み進めるのだ。
自分は、これで7月以降、刃牙シリーズは『グラップラー刃牙』『バキ』『範馬刃牙』『刃牙道』と読み終えた。刃牙シリーズが対象とならない期間には、『サバイバル』と『自殺島』を読んだ。(これらのうち特に『自殺島』についてはちゃんと感想を書いておけば良かった…)
そして『刃牙道』の次のシリーズ作品である『バキ道』がまだ対象作品に入っていないので、何を読もうかと思ったときに目についたのが『シグルイ』だ。


山口貴由さんは、以前kindleのお試しで『覚悟のススメ』『エクゾスカル零』の2作品の1巻を読んだ覚えがあり、独特の雰囲気を持つ作家という印象はあった。
しかし、読んだことのある2作が仮面ライダー的なビジュアルに惹かれたのに、『シグルイ』は苦手な歴史物ということで、心配はあったのだが、読み始めると次が待ちきれないほど楽しんで読み終えてしまった。
ひとつ忘れていたが、時々聴いている映画評中心のpodcast番組「二九歳までの地図」でも取り上げていたことがあり気になっていた。

シグルイ』について

物語はいきなりクライマックスから始まる。場面は、2人の異形の剣士が「駿河城御前試合」で真剣を用いた勝負を行おうとするところ。
2人は隻腕対盲目で、特に盲目の剣士が見たことのないような構えで、1巻の冒頭から「異様」な空気が充満している。


自分は、これを『刃牙道』のあとに読んだのだが、『刃牙道』=「刃牙」+「武士道」(宮本武蔵)の話であり、真剣を使った闘いも登場することから、非常に自然な流れで読むことができた。
しかも、刃牙道→シグルイの順序も良かった。というのは、もし逆だったら、板垣恵介は『シグルイ』をやりたくて『刃牙道』を始めたのではないか?疑ってしまうほど『シグルイ』の面白さが圧倒的だからだ。
例えば、実際に斬る前に、イメージで斬る/斬られるが成立してしまう場面が『シグルイ』に何度も登場するが、『刃牙道』で武蔵が繰り返すのは、このような戦い方だ。
また、『刃牙道』の武蔵は刀を持たなくても「最強」なのだが、シグルイの2人、というより「虎眼流」という流派自体、刀が無くても強い。
2019年7月に行われたトークショーの記事を見ると、山口貴由板垣恵介は、同じ小池一夫劇画村塾の出身で、山口が5期生、板垣が6期生で、いわば兄弟子、弟弟子の関係にあるのかもしれず、お互い影響し合っているところはあるのかもしれない。


閑話休題
その後、物語は、二人のライバルの出会いのシーンに遡ることになる。
2人は以下のように水と油。

  • 藤木源之助:主人公的だが、明るさの無いキャラクター
  • 伊良子清玄:艶のあるキャラクター。役回りとしてはダークヒーロー。

もともと伊良子が「虎眼流」の道場に道場破りに来て藤木に勝ち、兄弟子に敗れ、入門するところから二人の物語は始まる。
そして、中盤まで物語の空気を作るのは、虎眼流の始祖である岩本虎眼の非人間的な、もっといえば怪物的なキャラクター性。刃牙にも「範馬勇次郎」というバケモノ的なキャラクターがいるが、それとは全く異なる、理不尽で怖い「異物」としての強さを岩本虎眼が持っている。
勿論、終盤、真剣での御前試合を決めた徳川忠長(秀忠の息子で家光の弟、家康の孫)の異常性、残酷度も際立つが、岩本虎眼の存在感と比べれば、ただの暴君に過ぎないとすらいえる。


このように、物語世界全体を監視するようなキャラクターの存在によって、特に虎眼流にずっと身を置いた藤木は緊張感の中で生きることになる。そのような中で自由に生きる伊良子の魅力は特に光る。
ところで、マンガBANGに限らず、他のアプリも同様なのかもしれないが、アプリ上の処理として、「修正」が頻繁に入り、例えば女性が胸をはだけているシーンは黒く塗られる。『自殺縞』で言うと最終17巻など、コミックス表紙にすら修正が入るほど厳しく、『シグルイ』では、残酷シーンや性的シーンで、何が行われているのか全く分からない場面が数か所あった。伊良子もそうだが、終盤に登場する女剣士・舟木千加については、彼女が半陰陽であることと絡めて性的なシーンが複数登場するのだが、内容が全く分からない修正具合で残念だった。


と簡単に内容のポイントを書いてきたが、本作は、南條範夫の時代小説『駿河城御前試合』を原作としており、徳川忠長など実際の歴史上の人物が登場することによって「実際にあった話なのかもしれない」の思わせる強度がある。
そして、携帯で読んでも全く読みにくさを感じない勢いがある。(刃牙を読んでいるときは、これ以上読みやすい漫画はないのでは?と思っていたが、それに勝る)
面白かったので「また読みたい」本ではあるが、独特の緊張感を強いられるマンガなので、読み返すのはもう少し時間が経ってからでもいいかもしれない。
原作とは異なる部分も多いということだが、原作小説に手を出してみようかとも思ったが、『刃牙道』の流れで、宮本武蔵本も読みたい。

駿河城御前試合 (徳間文庫)

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腕KAINA~駿河城御前試合~(1)

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五輪書 (ちくま学芸文庫)

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大帝の剣 1 (角川文庫)

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