Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

竜児とマヤとキャンディ~いがらし ゆみこ・水木 杏子『キャンディ・キャンディ』

キャンディ・キャンディ』が届くまで

ご存知の方も多いと思うが、『キャンディ・キャンディ』は、日本どころか世界で愛された傑作アニメとして知られ、いがらしゆみこ先生の代表作でありながら、現在、絶版で入手困難な作品となっている。かつては何度も再放送されたアニメも、あることが理由で今後再放送やメディア化されることはない。(詳しくは下の記事もしくはWikipdeiaを。)
自分はそのことを著作権に関する本を読んで知り、すぐさま調布市の図書館に予約をしたのだった。(調布市水木しげるの故郷ということもあり、漫画の蔵書が比較的充実している)

pocari.hatenablog.com


思えば、それが6年も前のこと。そこから待ちに待ってやっと自分のところに熱望したキャンディ・キャンディが届いたのだった。

高嶺竜児とキャンディ

先ほども書いた通り、子ども時代にはキャンディ・キャンディの再放送をよくやっていた。本放送の時期も生まれてはいたが、2歳~4歳(1976〜1979)の頃のことになるので、ストーリーを意識したのは小学生になってからの再放送だろう。
当時、小学生男子だった自分は、少女向けアニメということで避けていたが、何故か2歳下の弟が熱中して見ていたので気になってはいたのだった。
なお、Wikipediaによれば原作漫画とアニメの関係は以下の通り。最終話のタイミングを一致させるなど、なかなか熱い取り組みがなされた作品だったことが分かる。

原作開始の1年半後にテレビアニメ版が放映開始、原作と同時進行しながら1976年10月1日から1979年2月2日まで放送。放送時間帯は、毎週金曜日19時から19時30分(全115話)。最終話は、原作の最終回が掲載された「なかよし」の発売日の前日に放送された。これは物語のラストで語られる「ある秘密」を出来るだけ同時に明かすようにするための意図的な試みであった。
キャンディ♡キャンディ - Wikipedia

さて、このあたりの「ある秘密」についてもしっかり知らなかったため、ストーリーに興味を惹かれたということの他に、今回、自分が『キャンディ・キャンディ』の物語を読む際に確認をしたかったことが2点あったので、最初にそれについて記しておきたい。


聖闘士星矢』で有名な車田正美が描いた『リングにかけろ』というボクシング漫画の名作がある。
車田漫画の王道と言えば、見開きで必殺技の名前を叫んで敵を倒す展開。
主人公の高嶺竜児の必殺技はフック系で、ブーメランフック→ブーメランスクエア→ブーメランテリオスとストーリーが進むにつれて強力な技に進化していく。
このうち、ブーメランテリオスという必殺技は、倒される相手が皆「テリオスとは…まさか…あの…(ガハッ!)」と一言発して意識を失う超強力な技だが、結局、物語が完結されるまで、テリオスとは何だったのかが明かされないのだった。


そこで、キャンディ・キャンディが出てくる。キャンディが好きになる相手は何人か登場するが、本命はテリュース(物語内ではテリィと呼ばれる)。「テリオスとは、まさか、あの…キャンディ・キャンディのテリュースなのではないか?」という風に誰かに吹き込まれたのか、何か関係があるのかと信じていたのだった。(さっき確認したら、両作品とも好きな弟が冗談で主張していたらしい)

もう一つは、車田正美先生がキャラクターの造形(特に髪型)をキャンディ・キャンディから学んだのではないか、という話を、これもどこからか吹き込まれて信じていたからだ。(この情報は弟由来ではない)
そもそも『リングにかけろ』の世界大会に登場するフランスJrチームは、ナポレオン・バロアが率いる5人兄弟(同じ顔)で、「ベルサイユのバラ』のオスカルと同じ髪型をしているので、これは信ぴょう性が高いと考えていた。

全く関係のない『リングにかけろ』とのつながりを考えると自分にとって『キャンディ・キャンディ』は、倒さなければならない敵だったのだ…。

「アッと驚く展開」でぴったり終わる物語

直前に、(記憶力はいい加減だが)すぐにネタバレをしてしまう奥さんから「たしか最後はとても後味が悪い終わり方だった」と聞かされ、びくびくしながら読む。実際、数人しかいない主要メンバーの何人かが命を落としてしまう展開に、『鬼滅の刃』を思い出して不安になる。
しかし、ラストは、少しずるいと思いながらも「アッと驚く展開」で丸く収まる。(奥さんの記憶違いだったようだ)
はっきり言って6巻があっという間に過ぎてしまう漫画で、そのスピード感と物語の深みは、それこそ『鬼滅の刃』以上のものがある。

好みのタイプとミスリーディング

アンソニー、アーチー、ステアという、兄弟のような3人から好かれ、さらに本命のテリュースだけでなく、嫌なニールからも好かれるというハーレム状態のキャンディだが、キャンディの好みは一貫しているところは信頼のおけるところだ。


最初に登場するのは「丘の上の王子様」。
孤児院「ポニーの家」でキャンディとずっと一緒に暮らしていたアニーが養女として引き取られ、その後、手紙もよこさなくなってしまうことを悲しみ、涙を流す幼いキャンディを「丘の上の王子様」は慰めてくれたのだった。

次は、ニールとイライザにいじめられて泣いていたキャンディを、6年前の「丘の上の王子様」と同じように慰めてくれたアンソニー。(自分は、一番最後まで、「丘の上の王子様とアンソニーは顔が同じで明らかに同一人物なのに、どうして分けるのだろうか…?」と思っていたが、作中では「6年経っているのに同じ姿はおかしい」ということでその可能性は否定されている)

そして、1巻の最後でアンソニーが落馬事故で亡くなり、代わりにアンソニーにそっくりなテリュースが登場する。性格が悪いにもかかわらず、キャンディはすぐにテリュースのことを惹かれていく。つまり丘の上の王子様→アンソニー→テリュースと顔の似ている人を次々と好きになる。


この流れを見ると、一番最後の展開は、上手いミスリーディング(髪の色の設定など)によって成立していることが分かる。その意味で、キャンディ・キャンディはミステリ的でもある。


以下、中公文庫2巻表紙はアンソニー、5巻表紙はテリュース。


さまようキャンディ

ところで、物語全編を通して、キャンディは活動場所を頻繁に移す。このあたりは朝ドラっぽいとも言える。

  • ポニーの家という孤児院(アメリミシガン湖近く)
  • ラガン家(ニールとイライザの家:レイクウッド)
  • メキシコ送りになりかける
  • アードレー家の養女に(レイクウッド)
  • アンソニーの死をきっかけにポニーの家に
  • 留学で聖ポール学院に(ロンドン)
  • イライザが仕掛けたテリーとの密会事件をきっかけに密航して渡米。ポニーの丘に。
  • メリー・ジェーン看護学校に。(ポニーの家から4時間程度)
  • 一次大戦がはじまり聖ヨアンナ病院に派遣。(シカゴ)
  • シカゴのアパート住まいは変わらないながらも、ニールの逆恨みから聖ヨアンナ病院を解雇されハッピー診療所で勤めることに。
  • 同居していたアルバートさんが行方不明になったことをきっかけにポニーの家に戻ろうと決意したところにニールとの婚約話が。
  • ポニーの丘に戻る。

こう書きだしてみると、序盤と終盤でニールの嫌がらせにより二度も居場所を失いかけるキャンディは可哀相。
特に、序盤の「メキシコ送り」の件はひどい。レイクウッド(ミシガン湖近く)からメキシコなんてどれだけ距離があるのか…。

キャンディと北島マヤ

Wikipediaを読むと、ストーリーは『アルプスの少女ハイジ』に着想を得ているようで、確かにそれも納得だが、自分としては、どうしても大好きな『ガラスの仮面』と比較してしまう。
なお、『キャンディ・キャンディ』の連載は、「なかよし」1975年4月号から1979年3月号、『ガラスの仮面』は「花とゆめ」1975年発売の1976年1号で連載開始ということなので、開始はほぼ同時期ということになる。
キャンディ・キャンディ』は終わり方も含めて、恋愛漫画というより、キャンディが自分の望む生き方を求めていく「自分探し」の漫画なのだが、まさにその恋愛要素が類似点だ。


両作品で対応するキャラクターは以下の通り。

  • アルバートさん:速水真澄
  • イリアム大おじさま:紫のバラの人
  • ジョルジュ:聖さん
  • ステア:桜小路君
  • スザナ(テリィの共演相手):紫織さん

こう見ると、マヤは気が多くて少しフラフラするので、桜小路君のような男が犠牲になっていることがよくわかる。
キャンディは「好き」がはっきりしているので、アーチーもステアも、キャンディへの愛情は変わらないが、気持ちを切り替えて他のパートナーを見つけている。(ステアにはパティ、アーチーにはアニー)
マヤがキャンディくらい桜小路くんのことを相手にしなければ、桜小路くんももっと幸せになっていたはずなのに…。


一方、ヒロインがもう少しで最愛の人と結ばれるというときに決定的な問題を生み出してしまうスザナは、紫織さんは完全に同じ役回り。
また、照明が落ちてきて怪我をするのは姫川亜弓と同じ状況であることを考えると、美内すずえ先生がキャンディ・キャンディを好きでわざと似せてきているということもあり得る。

ガラスの仮面 1

ガラスの仮面 1


最後に

ということで、キャンディ・キャンディは、悲劇、別れ、驚きの展開と、物語を盛り上げるいくつものポイントが短い話に盛り込まれているだけでなく、第一次世界大戦時のアメリカ、イギリス、フランス(ステアはフランス軍の志願兵となる)を舞台にした、やや骨太の要素もあり、得るところの多い作品だった。
それだけに、こんなに面白い作品が、手軽に読めないのはとても残念だが、著作権裁判についても勉強しておきたい。


なお、ブーメランテリオスの秘密はわかりませんでした。
また、ステアが何となく、ドイツJr.のヘルガに似ているかなと思ったけど眼鏡が共通するだけでした。