Yondaful Days!

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ツール・ド・フランス2022後半×近藤史恵『スティグマータ』

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さて、終わってみると、1週目のポガチャルの優勢は、2週目以降、ユンボ・ヴィスマの総合力によって抑えられ、マイヨ・ジョーヌと山岳賞はヴィンゲゴー、マイヨ・ヴェールはファンアールトが取り、つまり4賞*1のうち3賞をユンボ・ヴィスマが独占し、ポガチャルは、マイヨ・ブランのみとなりました。


潮目を大きく変えたのは第11ステージ。

まさに「チームの力」で、複数人の攻撃でポガチャルを疲れさせ、マイヨ・ジョーヌの交代が起き、自転車ロードレースがどういうものか少し理解が進んだ気がします。(ユンボは15ステージで2人メンバーが減り、UAEと同数になったのですが、結局、ファンアールトが1人で3人分くらいの活躍をしており大きなアドバンテージがありました)


後半は、中継を見ていることも多かったですが、中継を見ると、やはりその美しい(そしてガードレールが無くて怖い)風景や、トラブルや選手同士のやり取りの一挙手一投足にドキドキしました。

それにしても最初から最後までずっと活躍し通しだったファンアールトは本当にすごかった!
以下、JSPORTSのTwitterのリンクでポイントを。


大きなポイントとなった第11ステージのハイライト。


こんなところを進むのは嫌だ、というか日本では到底考えられない映像(第12ステージ)。


この友情が素晴らしい!(第18ステージ)


風景にしびれる(第19ステージ)




スティグマータ』


さて、そんな中で読み進めたシリーズ第4作の『スティグマータ』では、主人公チカ(白石誓)は30歳。

サクリファイス』の3年後が『エデン』、そしてその3年後が『スティグマータ』ということで、登場人物もそれぞれ年を取り、位置づけも変わってきている。

『エデン』のラストでは、チカは、来年はフランス人の期待を一身に背負った若手二コラ・ラフォンと同チームなのかと思わせて、同チームのエースだったミッコと共に別チームに移籍。

それが、『スティグマータ』では、チカは(個人的に待望していた)二コラと同じオランジュフランセの所属となっている。


そして今回、チカの日本(チーム・オッジ)時代の同僚・伊庭和美がついにツール・ド・フランスの舞台に!移籍先がフランスに新しくできた「チーム・ラゾワル」で「堕ちた英雄」ドミトリー・メネンコが所属するチーム。

さらに、ミッコの所属するサポネト・カクトの若い才能ベレンソンが、総合上位の争いをかき回す。ちょうど3年前に二コラがいたポジションということになるだろうか。


そういった意味でシリーズ総決算のツール・ド・フランス
1ステージ1ステージを実際のレースと並行して読んだので、感動もひとしお。とにかくレースの行方がどうなるかが気になって仕方がない読書となった。


さて、本作のミステリ的なポイントは「イストワール」。

この文庫版も解説(作家・川西蘭)が素晴らしい。*2

スティグマータ』では、聖痕とともに「イストワール」がキーワードになっている。ある選手が、プロ選手に必要なもの、として白石に語るのが、イストワールだ。作中でも説明があるように、イストワールはフランス語で歴史、物語を意味する。歴史はつねに単なる出来事の羅列ではなく、出来事を関連づけ編纂して叙述される=語られる。つまりは、物語なのである。

そのあと、そのイストワールによって神格化された実在の選手としてパンターニが紹介されているが、7/8の銃撃事件で亡くなった安倍元首相のイストワールが様々に語られる今だからこそ、このテーマの重要性を感じる。


続編が出たとして、(これまでのシリーズの流れ通り)3年後のチカは、どんな選手として、どの国で活躍しているだろうか。もう現役は退いているのかな。と色々と空想は膨らみますが、ひとまずはシリーズ最新刊まで読み終えて大満足でした。

この本(と、あの漫画)がきっかけで、今回実際のツール・ド・フランスも堪能できて本当に良かったです!
次はグラン・ツールの最後、ブエルタ・ア・エスパーニャ。ログリッチの4連覇がかかっているということで、引き続きユンボ・ヴィスマに注目ですが、ポガチャルも出場予定ということで、ポガチャルを応援したい!

*1:ジャージの色に特徴のある4賞については、例えばこちらのページがわかりやすい。https://cyclelife.jp/prosports/xsEGP

*2:サクリファイス』も『サヴァイヴ』も解説が良かったが『エデン』に解説がなかったのは残念