Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

大技を支える絶妙なリアリティライン~麻耶雄嵩『隻眼の少女』

今週のお題「好きな小説」)

先日の『あぶない叔父さん』不完全燃焼からそのままの流れで読んだ、同じ麻耶雄嵩作品で、日本推理作家協会賞本格ミステリ大賞をダブル受賞した作品。
麻耶雄嵩のデビュー作『翼ある闇』は1992年で、2011年のこの作品までは無冠だった。『神様ゲーム』は2006年の作品でデビュー作から継続して面白い作品を書き続けていたことを考えると、無冠だった時期は「かなり長い」という印象だ。
その後は2015年に『さよなら神様』で再び本格ミステリ大賞を受賞。
その『さよなら神様』が、自分の中ではベスト3と言っても良い作品であることから考えると、自分にとって一定の面白さ(ミステリとしての驚き)が保証された作品ということが出来る。

さあ、期待通りの読書となったのか。

実読

この物語の「名探偵」は表紙にも姿が出ている通り、牛若丸風の装束(水干:すいかん)を着た17歳の少女、御陵みかげ。
名探偵コナンにも負けないビジュアルイメージだが、『貴族探偵』にしろ、メルカトル鮎、また、『あぶない叔父さん』の金田一耕助的風貌など、麻耶雄嵩作品の探偵はビジュアルの癖が強い。
変なカッコの名探偵というだけでもインパクトがあるが、本作では、「御陵みかげ」が世襲であること、先代は警察たちに信用が厚いことなど、序盤で明らかになっていく突飛な設定が徐々にリアリティラインを下げていく。そのことで、ミステリならではの「仕掛け」をかけやすくしているのかもしれない。


本作は二部構成で、第一部が「1985年・冬」、第二部が「2003年・冬」ということで、18年の時を経て同じ場所で発生した2度の殺人事件(群)に名探偵が挑むという点が最大の特徴。(語り手が年齢を重ねてしまうというのは名探偵コナンでは難しい設定だろう)


読み進めて驚いたのは、1985年の事件(第一部)では、みかげの推理が外れてさらなる犠牲者が生まれるどころか、みかげの父親までが巻き添えを食って死んでしまう部分。最終的に事件は解決するが、真相を語る前に犯人も自殺してしまうなど、万事解決と言えない、スッキリしない形で、一応の決着がついてしまう。
一方で、語り手である種田静馬とみかげが結ばれる場面が、最後に入るなど、名探偵・みかげと、助手・静馬との関係も面白く読んだ。


そして18年後の第二部へ。
みかげに捨てられ、自殺に失敗し、記憶を失い別名で生活していた静馬は、事件の起こった栖苅村をテレビで見て、すべての記憶を思い出す。ネットで調べると、みかげは名探偵として活躍後、半年ほど前に扱っていた事件の捜査中に命を落としたことを知る。
弔いも兼ねて、18年ぶりに栖苅村を訪れた静馬が、水干姿の少女と出会う。
彼女は、みかげの娘だった…


というのが第二部の始まりだが、そこからは怒涛。
18年前と同様に三つ子の姉妹が1人ずつ犠牲になり、名探偵が、親族から猛反発を受ける流れまで18年前と全く一緒に進む。


そして(リアル本を読む醍醐味でもあるが)、「圧倒的な解決」の手がかりが見えないままに、それはまるで第一部を繰り返すように、淡々と物語は進み、残りページが少なくなっていき焦っていく。
これまで読んで満足が高かったミステリから、6割くらい進んだときに中ネタがあり、8割で大ネタ、9割で爆弾みたいな配分を想定していたので、「ここから意外な犯人が登場して、全部ひっくり返して、読者を納得させる」のは難しいぞ!と思いながらページをめくっていき、やっと!事態が動いたのは全499ページの物語の466ページ目…。本当に最後じゃないか!

オチを振り返って

振り返ると、メインの仕掛けは名探偵=犯人モノということになるが、世襲制の名探偵であることや、母死亡という情報に引っ張られて、名探偵2人が同時に現れるとは想定していなかった。
水干姿の名探偵であるという時点で、それはたった一人なのだ、という思い込みがあったのだろう。


異常すぎるのは、父殺しのカモフラージュとしての因習村で連続殺人を起こす、という部分なのだが、名探偵の衣装のせいでリアリティラインが下がっているので、「それもあり得るかも」という気がしてくる。
結果として、静馬は実の娘である「隻眼の少女」の助手として、みかげを支えていく、というラストの後味の良さも含めて、凄惨な事件の割には前向きに思わされてしまうところも、匠の技、といったところだろうか。


ということで、終わってみると、リアリティラインのレベル合わせが絶妙だったことに気づかされる、非常に「爽やか」な読後感の作品だった、
しかも記憶力に難ありの自分にとって、これほどまでに、オチが記憶に残る作品は非常に嬉しい。


引き続き麻耶雄嵩作品として、大学生時代に読んで衝撃を受けた『翼ある闇』、直後に読んで全く意味が分からなかった続編含め、メルカトル鮎シリーズ?にまた挑戦してみたい。

参考(過去日記)

pocari.hatenablog.com



本格ミステリ大賞も整理しました。感想を書いていない道尾秀介『シャドウ』も含めると本格ミステリ大賞の既読は、まだ7冊ですね。有名作品ばかりなので、できるだけたくさん読みたい。(あの名作を読んでないの…!とかもありますね)
pocari.hatenablog.com