Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

期待感だけなら満点の反則ミステリ~麻耶雄嵩『あぶない叔父さん』


紀伊国屋の新宿本店で、ミステリかホラーか「怖い」に関連するフェアで見かけてこの本を知った。その時のポップに惹きつけられるものがあって手に取った。  麻耶雄嵩 は久しぶりだったが、全く知らない本でこんな風に評価されている作品があったのか。

寺の離れで「なんでも屋」を営む俺の叔父さん。家族には疎まれているが、高校生の俺は、そんな叔父さんが大好きだった。鬱々とした霧に覆われた町で、次々と発生する奇妙な殺人。事件の謎を持ちかけると、優しい叔父さんは、鮮やかな推理で真相を解き明かしてくれる――。精緻な論理と伏線の裏に秘された、あまりにも予想外な「犯人」に驚愕する。ミステリ史上に妖しく光り輝く圧倒的傑作。

ところが、結論を言うと、評価しにくい本だ。
自分にとって麻耶雄嵩は「神様」シリーズだったり、『翼ある闇』だったり、忘れがたい作品も多い特別な人。
だから高望みしてしまい過ぎてしまったところがある。


6編から成る短編集だが、自分は1編目「失くした御守」を読み終えたときに気がついてしまった。


この解決は不自然過ぎる。
納得しにくい。
これはアレだな。
多重解決ものだな。
叔父さんの話は、状況の説明にはなっているが真実ではない。
何の繋がりもないように見える主人公の彼女・真紀が、実は叔父さんと出来ていて、彼女が好きなドラマに見立てて犯した殺人事件の痕跡をすべて消し去ったのが叔父さん。そして、最も彼女に近しい主人公・優斗に悟られないよう、見てきたように嘘を言うのも叔父さん。
そういう連作なのだろう。
最後の6編目でその辺りがすべて明かされるはず!


と思いながら6編目を読み終えてみて驚く。
えええええ!
これで終わりなの?



この作品の裏表紙には、「精緻な論理と伏線の裏に秘された、あまりにも予想外な「犯人」に驚愕する」と書いてある。
この明らかに「書き過ぎ」の内容自体に問題があるとはいえ、6編を読み終えて見ると、「あまりにも予想外な犯人」なのだろうか。
ネタバレすると、結局6編すべて、主人公が叔父さんに相談してみると、いずれの事件にも叔父さん本人が関与しており、5編では直接被害者を殺した形になっている。確かに、通常は探偵役に配置される人物が、相談相手に対して「推理」ではなく、「自白」を始めるようなミステリは前代未聞だろう。


しかし、タイトルが「あぶない叔父さん」なのだから、読む前から、この叔父さんは人の一人や二人殺しているんじゃないだろうか?と思うのではないだろうか?


そう考えると、紀伊国屋新宿本店のポップもそうだが、この裏表紙の「あらすじ」もやはり過大な期待を煽る、問題がある文章の気がしてきた。本当にミステリは、こういった罪作りの「あらすじ」が多い。


さて、新潮社のホームページには、本作品の紹介のところに、三橋暁さんの書評が載っており、ラストの部分を抜粋する。

一方、読者の心には、「失くした御守」を読み終えた途端、黒々としたある疑念が浮かび、それを確かめたい気持ちに駆られて、頁をめくる手にも力がこもるに違いない。しかしそれを嘲笑うが如く、一定のパターンを敢えて覆してみせる第3話の「最後の海」のような作品もあって、読者の看破を容易に許さない作者の手強さは、ここでも不変だ。
語り手の優斗をめぐっては、第2話の「転校生と放火魔」で、小学校時代の元カノ辰月明美が帰郷し、強引に復縁を迫るという展開が待ち受ける。以降、優斗、真紀、明美の魔のトライアングルは、ダークな色合いのラブコメ調となって、不協和音を響かせながら連作の行方を攪乱する。
最後をしめくくる書き下ろしの「藁をも掴む」は、そんな彼らの関係を象徴するかのような青春・学園ミステリで、校舎から2人の少女の転落死を優斗と明美が目撃する。掟破りの趣向とも相俟って、本連作集中屈指の名編といえるが、それでも読者の脳裏を過ぎるのは、そこへと至る道筋に置き去りにされてきたピースの数々だろう。つい先ごろ、『神様ゲーム』のアンチテーゼを9年越しの『さよなら神様』で鮮やかに回収してみせたばかりの作者のこと。いつの日かこの“叔父さん”シリーズもまた、読者の思いも及ばない大団円を見せてくれるに違いない。
https://www.shinchosha.co.jp/book/121281/

そうなんですよ。特に6編目は主人公が二股をかけている2人の同級生女子の言葉にも引っかかるところがあったり、「来るぞ来るぞ」感がある。
でも「来たー」とならないところまで含めて麻耶雄嵩の「芸」なのかもしれないが、やはり「…と見せかけて…」に期待してしまう。
発表が2015年で、今まだ続編が出ていないようなので、9年間音沙汰なし、ということになるが、続編ですべての落とし前を付けてほしい。
何かが起きそう、という予感に満ちた作品だったが、まさか予感を膨らませただけで、それに応えない結末が待っているとは思わなかった。予感・期待感だけで言えば満点に近い作品かもしれない。