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エレガントな将棋、あります〜野崎昭弘『ロジカルな将棋入門』

ロジカルな将棋入門 (ちくまライブラリー)

ロジカルな将棋入門 (ちくまライブラリー)

著名な数学者の書く将棋入門の本ということで読んでみた。
あとがきを読むと、もともと、英語圏に向けて将棋を紹介したいという意図があって作り始めたものということで、切り口が少し変わっている。
具体的には、駒の動かし方の前に、将棋が生まれた歴史の部分から話が始まることと、チェスとの比較が多いという点だ。
そこまで遡って分かりやすく教えるという「丁寧さ」の意味を「ロジカル」という言葉に託したようで、ロジカルシンキングみたいなものとは異なる。逆に言うと、数学者が書いた本にしては、予想外に文系寄りの本になっている。
また、詰将棋次の一手など、クイズ的な章(5章 詰将棋の楽しみ)もあるが、問題が並ぶというよりは、エレガントな解答について称賛する、そして、詰将棋というパズルを愛でる内容になっている。実際に手順を追って確認する部分もあるが、煙詰やあぶりだしなどの「曲詰」についてなどは、芸術作品の紹介のようで、初心者の自分には敷居が低く、バランス良く感じられた。また、相手が詰まれるのに協力する「バカ詰め」や王手なしの手もOKな「チェス風詰め将棋」などのバリエーションの紹介も楽しい。


自分が特に面白く感じたのは、十枚落ち、八枚落ちの将棋の指し方を一手一手辿った4章(将棋がちょっぴり強くなる)だ。ここまでシンプルにすれば、どれが悪手でどれが最善手かということは、数手先まで読めれば分かる。これを持って、定跡というものの強さを知る。
最近、iPhoneアプリで「どうぶつ将棋」をやったりもするのだが、盤面がシンプルで、間違えなければ勝てるが、間違えると勝利がかなり遠のく、という意味で、十枚落ちや八枚落ちの将棋に近いものがある。


最終章(6章 将棋と数学)では、コンピュータ将棋の本にはいつも出てくる「探索木」についての説明がある。ここでも前の章で実際に考えた十枚落ち将棋の例が挙げられているので、なかなか理解しやすい。また、千日手についてなど、他にはない説明も出てくるのが特徴的。

全体として、何より将棋愛が感じられるのが気持ちよく、米長邦雄(王将)による帯コメント「将棋を始めた頃にこの本に出会っていたら私の超能力はもっとすさまじかったであろう。」も納得の、なかなか面白い将棋入門書だった。