Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

香山リカ+福田和也『「愛国」問答』★★★★

日本の若い世代に緩やかな右傾化が進んでいるということに不安を抱いた香山リカが問題提起として書いた『ぷちナショナリズム症候群』(未読)の続編。その後の北朝鮮拉致問題の進行、日本のアメリカ追従政策に反対する形での再軍備の主張の高まりなどに、さらに右傾化が進んでいることを見た彼女が、自分だけでは問題を論じられないと感じ、同世代の「右翼」福田和也に意見を伺う、というもの。

実は昨年秋頃に買ったのだが、当時の印象はあまりよくなかった。二人の意見が交差せずに知識の披露合戦になっており、新たなものが生み出されるような対談の面白みが出ていないという感じがしたのだ。
しかし、今考えれば、「両者の意見を等価に見る」という自分の読み方を間違っていた。この本はそう読むべきではない。福田和也の意見は話半分に読んで、香山リカの主張を追っていくと、非常に分かりやすい。福田和也が変なことを言っているわけではないのだが、引用と薀蓄が多くて、やや疲れる。
 
香山リカは、右傾化の進行を森永卓郎のいうような国内での格差拡大と結び付けて考えているのだが、特に興味を引いたのが、「ボボズ」について。ボボズ自体は、ブルジョアボヘミアンの略称で、米国作家が作った言葉で一般名称ではない。香山リカによると、「上流階級にいながら、地域社会の安全や家族の幸せのみを考え、他者に対して無関心で、生活水準が低い人や少年犯罪に対して非常に厳しいドライな意見を持つ」彼らのようなタイプの人が日本にも増えてきているという。
それ以外にも典型的な層が二つ出てくる。3つをキーワードで整理するとこんな感じ。
・「ボボズ」な人たち:勝ち組のナショナリズム、「弱い」「正しくない」人を軽蔑、思いやりの欠如
・「凶器の桜」組:負け組のナショナリズム、社会的弱者、外国人排斥、日本人の誇り
・「タマちゃん助け」隊:自分なんか世界に関係ない、でも何かにコミットメントしたい、記念カキコ、引きこもり、エヴァンゲリオン、ギャラクシークエス
対談は、日本にとってのアメリカについて話題が移っていくが、結局、対談の中では、香山リカの根本的な不安は解消されずに終わる。しかし、序文にも書いてあるとおり(論旨は「序」に非常に分かりやすくまとめられている)、彼女は上述の3者に代表される雑多な人たちが共存できる「ゆるい社会」を作る道を模索していきたいという結論に達する。
僕は香山リカの意見には、かなりの部分で共感できるし、彼女の結論についても現在のところは同意する。しかし、やはり甘いのかもしれない。容赦ない所得格差拡大の時代はすぐそこまで来ていて、対米の姿勢にかかわらず、軍備を強化し、強くて自立した国を目指す日本の未来は「アホでマヌケな日本人」なのかもしれない。