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塩野七生『ローマ人の物語6(勝者の混迷(上))』★★★☆

ローマ人の物語 (6) ― 勝者の混迷(上) (新潮文庫)
5巻を読んだのは昨年8月。その後6巻もすぐに読み始めて、何度も読みかけては、他の本で中断され、戻りながら読み直していたので、グラックス兄は4度ほど殺されただろうか。その間に、文庫版の『ローマ人の物語』は16巻まで出て、危機感を煽られたので、今回頑張って読み通した。
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6巻で全編を通してテーマとなるのは、失業者問題とローマ市民権の問題である。ゲルマン民族の来襲などもあったが、これらの内政的な問題に、グラックス兄弟と、ガイウス・マリウスらがどのように取り組んだかというのがポイントとなっている。
まず、失業者問題。
当時、元老院議員たちが、奴隷を使って大規模農園を経営することによって、自作農が疲弊させ、さらに、富裕階級に富が集中するなどという悪循環が起きていた。これによる大量の失業者の出現は、軍事力の低下という面でも問題になっていた。経済的に良いことは社会的にも良い結果をもたらすとはかぎらない(P48)ということが、まさに顕在化してきたのだ。

(元自作農の失業者の問題は)福祉を充実させれば解消する問題ではない。失業者とはただ単に、職を失ったがゆえに生活の手段を失った人々ではない。社会での自らの存在理由を失った人々なのだ。(中略)人間が人間らしく生きていく為に必要な自分自身に対しての誇りは、福祉では絶対に回復できない。職をとりもどしてやることでしか、回復できないのである。(P48)

というのが、塩野七生の基本的なスタンスである。失業対策として、失業手当を与えることくらいしか思いつかなかった元老院に対して、グラックス兄弟とガイウス・マリウスが取ったのは以下のような手段だった。

さて、マリウスによって、ローマ市民からは兵役義務がなくなったのだが、それ以外の同盟諸都市の市民(イタリア人とかソーチと呼ばれた)には兵役義務が残るなど、ローマ市民であるかどうかには大きな違いが生まれるようになった。これを不満とする、非ローマ市民である8部族は、「イタリア」という新国家をつくることを決め、ローマに戦争をしかける。「同盟者戦役」である。結局、ローマ側が折れて、これらの同盟諸都市の人間にもローマ市民権取得を認めた。
いまいち、ローマ市民権の部分はピンと来ない部分もあるが、ローマにとっては非常に大きな方向転換となったのである。

タイトルに「混迷」とあるのは、これらの問題が、いずれも階級格差が生んだ対立、既得権者の抵抗などに起因するもので、その対立からグラックス兄弟をはじめ、何人かの有力な人材が若くして殺されてしまったことがあるからであろう。階級対立などは、これまで日本人とは無縁と思ってきたが『希望格差社会ISBN:4480863605(未読)などの内容が、現実味を帯びてきているところを見ると、20年後、30年後はどうなっているのかわからないと悲観的になる。
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(補足メモ)
ローマ人の物語を読む上で重要になってくる職位名についてメモ

  • 護民官:平民階級の代表。護民官経験者は自動的に元老院議員になることが可能。グラックス兄弟は、護民官の立場で改革を行おうとしたため、元老院の反対が激しく、道半ばにして死んでしまった。
  • 執政官:市民集会、元老院と並び、ローマの三本の柱。ガイウス・マリウスは執政官になってから改革を行ったため、順調に改革を進めることができた。

ローマ人の物語』これまでの軌跡