Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

山藤章二『似顔絵』★★★☆

カラー版 似顔絵 (岩波新書)
実は、支社の広報誌の仕事で、ときどき同僚社員の似顔絵を描かせてもらうことがある。
まあ、技術を持っているわけでは全くないのだが、似ていると褒められれば嬉しいし、下手なりに似せようと努力する。
描き出してよくわかったのだが、特徴的な顔の人を見るときは、その人のイメージは、既に脳内でマンガのように単純化して像を結んでいるようだ。これは誰でも多かれ少なかれあると思う。
結局、そういうイメージの強い人を選んで似顔絵を描こうとするのだが、実際に紙に描くとどうもうまく行かない。目をつむると、その人の「似顔絵」がしっかり描けている気がするのだが、それを紙に写そうとすると、イメージが消えてしまう。よく言う「逃げ水」だ。それ故に、自分のイメージ通りの絵が描けた場合、嬉しさもひとしおである。
考えてみれば、文章を書くときも同じで、書いてみると「何か違う」と思うことは日常茶飯事だ。絵にしても文章にしても、頭の中のものを外に出すにはある程度訓練が必要なのだろう。
 
さて、『似顔絵』と題された本書を手に取ったのも、何となく、そういった「逃げ水」現象をどう解決したか、みたいな話があるといいなあ、と思っていたが、そんなものはなかった。そういうのは下手な人の悩みであって、上手な人には無関係のようだ。
本書では、そういった技術論でなく、「批評」としての似顔絵、「人物論」としての似顔絵を、自身の作品と、自らが主宰していた似顔絵塾の塾生の作品を紹介しながら語っていく。
「カラー版」だけあって、似顔絵が豊富で、眺めるだけでも楽しめる。文章の内容も、似顔絵一辺倒でなく、「文化」や「笑い」などの一貫したテーマがあり、なかなかよい一冊。