Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

高橋克彦『竜の柩』〈1〉聖邪の顔編★★★☆

竜の柩〈1〉聖邪の顔編 (ノン・ポシェット)
仕事の関係で(青森県弘前市を流れる)岩木川河口部にある十三湖のことを調べる機会があり、ぐぐってみると、『竜の柩』が十三湖を舞台にしていることがわかった。
高橋克彦という作家は、僕にとっては常に「宿題」的な位置づけの作家で、特に代表作ともいえる『火炎』『炎立つ』は、巷*1の評価もかなり高く、東北にいる今のうちに是非読んでおきたいと思っていた作品。僕自身は、かなり以前に『総門谷』を読んだことがあり、面白かったが「かなりのバカ小説」という印象を持っていたので、そこら辺を覆すような何かを東北を舞台にした歴史小説に求めたかったのだ。
しかし、折角だからと言うことで、ひょんなことから『竜の柩』を読み始めた。

龍とは何か?なぜ西洋では悪魔、東洋では聖なる存在なのか?古代文化の栄えた津軽十三湊、ピラミッド説のある長野皆神山、『古事記』に記された諏訪、出雲の龍神伝説…。各地に遺る龍の痕跡を辿っていたTVディレクター九鬼虹人に、意外にも世界的規模を誇る組織が妨害してきた。なぜ?世界秩序をも震撼させる龍、そして文明の謎に挑む大河巨編第一弾。

作品の評価はまずおいておくとして、メインとなっている『古事記』の解釈は大変面白く読んだ。そもそも、僕は、この種のオカルト的な話題は非常に好きなのだが、歴史関係は苦手にしていた。
ここで突然カミングアウトすると、中学〜高校の頃「ムー」を購読していた時期があった。「ムー」は、異常気象からUFO、古代史まで、かなり守備範囲の広い雑誌*2で、文章量も膨大。僕は、記事を全部読むわけではなく、予言、地球外生命体、地球と宇宙(大陸移動、極ジャンプ、隕石衝突等)などを好み、『東日流外三郡誌(つがるそとさんぐんし)』などの日本史に関わるものは、ほとんど読まなかった。自分は「理系」だという思いが強かったせいだろうか。
今回、改めて興味を持ってみると、その方向へ全く目を向けなかった、この十数年をもったいなく感じる。同じ情報でもそういったアンテナがあれば、100のうち1程度しか残らなかったものも、10程度は残っただろう。まあ、ただ、逆にいえば、自分が「歴史」に興味を持てるほど、歳をとったということかもしれない。若ければ、あまり昔のことに目がいかないかもしれない。

さて、本の内容であるが、解説で南山宏*3が言うように、分量にして五分の一が、主人公 九鬼紅人による古代史の謎解きの部分にあたる。舞台は、青森→長野→島根*4と渡り歩きながら、義経北行伝説から、安東水軍、古事記などについて、「龍とは何か」を軸に「組織」の妨害を受けながら、謎解きを進める、というもの。
「組織」というあたりで既に胡散臭い。そう、この小説も、以前読んだ『総門谷』と同じく、バカ小説という印象は強い。肝心の謎解きにしても、重要部分ではないが、例えばスサノオ=「(古代バビロニアの都市)スーサの王」などという、清水義範いうところの日本語=英語語源説(だっけか?英語の語源は日本語である、という説)*5ばりのコジツケがあって、これはちょっと・・・と思ったりもする。
しかし、古事記関連の記述など、元の話についても十分な引用があり、それと九鬼の解釈両方を対比しながら十分説得的な解釈が繰り出されて、勉強になり、さらに面白い、という一粒で二度美味しい小説だった。
まあ、ただ、一区切りついているとはいえ、連続小説の一冊目なので、二冊目以降も近いうちに読もう。
なお、竜の柩に関しては、以上に気合の入った解説ページを見つけた。→AI『竜の柩』
今後、参考にしたい。

*1:本の雑誌」や、僕の上司など

*2:本屋で最新号を手に取ると、世界的な水問題と日本の水利権などというテーマも取り扱っていた。何だかよくわからない雑誌だ。

*3:この人も『ムー』に連載を持っていた。よく読んでた。

*4:鳥取と誤記していました。宮崎吐夢のCDにもそういう曲がありましたが、島根、鳥取はいい加減に覚えていました。すみません。

*5:『蕎麦ときしめん』収録の「序文」を参照