Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

中山康樹『挫折し続ける初心者のための最後のジャズ入門』

痛快だ。
挫折し続ける自分が言うのもなんだが、中山康樹の言っていることは正しいのだと思う。
メッセージがひと味違うとか言葉の重みがすごいとか、内容の話だけでなく、構成が既に普通ではない。

序章 ジャズ道入門の心がまえ
第1章 ジャズにまつわる誤解と偏見
第2章 体験的ジャズ初心者の憂鬱
第3章 ジャズ道入門 心得編
第4章 ジャズ道入門 予習編
第5章 ジャズ道入門 実践編
終章 音楽に罪をなすりつけてはならない

通常、想像される、ジャズ入門の本とは異なり、前半部はオススメCDの紹介が全く出てこない。
上に挙げた目次のうち、第5章開始直後の144頁まで、延々と「説教」である。ジャズではない、「ジャズ道」についての説教である。
そう、いうなれば看板に偽りありなのだが、まえがきにこう書いてある。

まずもって本書はジャズの入門書ではない。
「ジャズ道」の入門書である。

読めばわかるが、中山康樹は、「ジャズに親しむ」というやり方がそもそも間違いだ、と言っている。
すなわち、耳あたりのいいピアノトリオや、スタンダードなどを薦める、これまでのジャズ入門書のやり方では、ジャズという音楽を知ることはできない。
とにかく、本物を繰り返し聴くこと、迂回せずに、いきなり頂点を目指し突き進むことが、ジャズ道の第一歩だとしている。

ジャズを、音楽を聴くということは闘いにほかならず、とくにジャズにはその傾向が強い。「なにを大仰な」と思われるかもしれないが、本質的にそういうものなのだからしかたがない。よって、闘う意志がなければジャズを理解することができない。(P84)

その闘いに打ち勝つためには、努力、根性、探究心などが必要なのだ。
前半の説教部分は、始終こんな感じだが、いくつかの具体的な提案がなされている。

購入するCDの枚数は、ひと月に2枚とする。
(略)
前述したように、たとえ毎月20枚、30枚と購入したところで、それを聴く時間が無ければ意味を成さない。日常生活のなかで音楽を聴くためにどれだけ時間が取れるか、それを考えた場合、おのずと枚数は限られる。(P90)

ごく一般的に考えて、CDの所有枚数は100枚が限界のように思える。体験的には「それくらいがちょうどよい」と断言できる。それ以上になると「聴く」ということが追いつかない。ましてや特定のCDをくり返し聴くことは不可能に近い。
したがって所有枚数はつねに100枚とし、増えた場合は、すでに"自分のものになった"と実感できるものから手放していく。

前述したように、音楽とは、くり返し聴くことによってなにかを発見していく行為にほかならない。しかし、そのためには絶対的な時間が必要となる。(略)自分で工夫し、音楽に費やせる時間をつくるしかない。(略)
そこで具体的な提案となる。まずはパソコンのスイッチを"オフ"にする。そしてパソコンの前に座っていた時間を音楽にあてる。(厳しいことを言うようだが、ジャズはパソコンで聴いても意味がない。)

まずい、今、パソコンでCD聴きながらこれを書いている。
そして、今現在、我が家には、聴けるコンポの類がない・・・。
CDの所有枚数100枚というのも結構厳しい。
先日、ダブりがあったので、椎名林檎のCD(ファーストアルバム+シングル3枚。夫婦別々に買っていたときの名残)を売りにいったのだが、40円!一緒に持っていった文庫本(東野圭吾『手紙』=50円)より安いので衝撃的だった。これがどれだけ凄いCDか知っているのか?とブックオフの店員を説教したくなったが押しとどまった。新しいものの値を高くつける、ということは知りつつも、これでは、家のCDを売る気には全くなれない。
ということで、「購入するCDは、ひと月に2枚」という教えだけは、守ろうと思う。というかレンタルとかしている時点でだめなんですが・・・。
〜〜〜
さて、140頁読み進めてから、やっと紹介されるのは2枚のCDである。*1本日、その片方を購入して来たが、ジャケが怖いので、それだけで怖気つきそうだった。
(本当は、薦められたもう一方が買いたかったが、売っていなかった。)
恐る恐るレジに持っていくと「輸入盤は2枚で20%オフですよ」といわれたので、あわてて戻って、怖くないジャケのCDとあわせてレジへ。
2枚で3000円を切るなんて、ジャズは優しいところもあるじゃないか、と思いつつ、HMVをあとにした。

(補足)『カインド・オブ・ブルー』は?

中山康樹は、最初に聴くべきジャズアルバムとして『In a Silent Way』を挙げたあと、マイルスで、さらに聴く5枚として、以下を挙げています。

  • Nefertiti
  • Bitches Brew
  • On the Corner
  • TUTU
  • Doo-Bop

あれ、お約束の『Kind of Blue』が入っていないと思われる方もいるでしょう。
しかし、本書においては、この名盤は第二章で大々的に扱われています。2章の「体験的ジャズ初心者の憂鬱」というのは、ジャズ初心者がいかにして挫折に至るか、をかなり真に迫る筆致で描いたものです。取り上げられているのは以下の3枚ですが、結論をいえば、これらは、初心者には、そのよさがわかりにくいアルバムとされています。(理由は本書で確かめてください)

  • Miles Davis『Kind of Blue』
  • Bill Evans『Waltz for Debby』
  • Dave Brubeck『Time Out』(の中の「Take Five」)

おそらく、「非」挫折者の方も、2章だけ立ち読みしていただければ、大笑いできると思います。
自己の感覚と照らし合わせても、挫折者の心情について高いレベルで認識していると思うし、この部分があるからこそ、自分には「ジャズ道」的な聴き方しか残されていないのだ、という思いに達するに至ったのです。
というか、そこまでして聴きたいか、という気持ちもあるのですが、今は「聴きたい」ので、中山先生の指導におとなしく従っておこうと思います。

*1:何が紹介されているかは、特設ページでも確認できます。