Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

河北新報社編集局『松林が危ない!東北・松くい虫被害最前線』

仕事や旅行で東北各地に行ったとき、目に見えてその「進行」が気になるのは、シャッター通りと並び、松枯れの状況。
特に秋田の本荘市近くの海岸は「惨状」というような状況でびっくりしたのを覚えている。
それが、本書で扱われる「松くい虫」の被害だ。
松くい虫被害のポイントは以下。

  • 二次被害を防ぐため、被害木は伐採する必要
  • 伐採木を放っておいても、松くい虫は繁殖し、被害拡大につながるため、すぐに処理する必要。
  • 増殖を防ぐ方法として、薬剤の空中散布があるが、環境への配慮から都市近辺や漁港では難しい。
  • 薬剤の樹幹注入(注射)という方法もあるが、高額(一本一万円。効果は3〜4年)

ちなみに、松くい虫の正体は、マツノマダラカミキリに寄生するザイセンチュウ。(松に穴を開けるカミキリだけでは被害は広がらない。)
明治時代に北米からの輸入材で移入してきたので、これもツボカビ同様、外来種問題である。
東北地方で問題になっている理由は以下の通り。

  • 東北のような寒冷地には、松くい虫被害はなかった
  • トラックによる木材の運搬でカミキリ&ザイセンチュウが西から運ばれてきた
  • ザイセンチュウの成長が遅れるゆえに、ジワジワと被害が広がるかたちで、被害木の伐採の可否が遅れるなど、東北独自の問題がある
  • また、西日本で開発された抵抗性松は、寒冷気候に対応できない
  • 一方で全国的には、被害が沈静化してきたところで、予算も減少している

対策としては、伐採、薬剤散布以外のものとして

  • 薬剤の樹幹注入
  • 天敵のアカゲラ、微生物のボーベリア菌によるもの
  • 電流を使ったザイセンチュウ対策
  • 東北に適した抵抗性松の育種

などがある。根本的な対策としては、抵抗性松の開発を行わなければどうにもならない状態。

まとめると、林業全体の問題だが、人の手が入らなくなったことで状況は悪化。しかし、悪化したものへの対応は容易ではないため、さらに放置、などという悪循環が続くのが現状。
本書内では、被害木の発見や苗木の育成(かなり厳しい管理が必要!)に精を出すボランティアが紹介されていたが、そういう方法しかないのか、という印象。
現代の都市生活自体が、見えない部分にかなりの歪みを抱えていることを、ここでも見てしまった、という気がした。
先日手に取った「省エネルギー」という雑誌の巻頭で石井吉徳さんが、エネルギー問題について、「技術で解決できる問題ではない、社会の変化が必要」ということを熱心に語っていたが、その必要性を改めて感じる。
とはいえ、H教授の意見も悲観的だし、不安は募るばかり。

H教授―もちろんそれは進むだろうけど、いずれにせよ現在の先進国の生活レベルを全世界に普及させるだけのエネルギー需要は膨大なものだ。化石燃料の使用を半減させたうえで、それを満たすことなんて到底できっこないと思うよ。
だから化石燃料の使用抑制を考えずに、適応策の強化だとか、CO2の地中隔離技術に流れる恐れがあるんじゃないかな。
あるいは野放図な原発の増設。でもこれはこれで問題は大きい。
つまりエネルギー消費を現状のように野放しにしたままでは、化石燃料依存社会からの脱却はムリだと思う。

Aさん―つまり本当の意味で持続可能な社会にするには、エネルギー消費抑制型社会にしなければいけないということですね。

H教授―でも、それができるのかなあ。

安井至教授のページでは、少し前向きに市民が何を出来るかを述べている。

(1)かなり時間がかかることだから、できるだけ早く取り組め。
(2)解決法は一つではない。だから、できるだけ多様に取り組め。
(3)国家という枠組みが重要。なぜなら、企業だけでリーダーシップを取ることができるという状況ではない。
(4)長期ビジョンを作ること。これが政府の役割。
(5)長期ビジョンをもった政治家を選ぶこと、これが市民の役割だ。

理屈はわかる。わかるが、やはり政治家に期待、という話になるのか・・・。
難しいが、まずは、自分なりに勉強を継続しよう。
松くい虫の話から少し離れてしまったが、あまり悲観的にならず、前向きに筆をおく。