Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

映画ドラえもん のび太と鉄人兵団

映画ドラえもん のび太と鉄人兵団 [DVD]

映画ドラえもん のび太と鉄人兵団 [DVD]

国民的人気漫画『ドラえもん』の原作者、藤子・F・不二雄が描き下ろした大長編の劇場版アニメ化第8弾。北極で巨大メカを拾ったのび太は、誰にも邪魔されない鏡面世界でそれを組み立てる。しかしそのロボットには恐ろしい兵器が搭載されていた。(Amazonより)

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唖然とした。(理由は後述。ネタバレあり)
Amazonでは概ね高評価であり、その理由も作品を見るとよくわかる。
・現実世界とは左右が逆で、誰も人が住んでいないという点だけが異なる「鏡面世界」という基本設定が上手い
・一方で、鏡面世界ではなく、本当の地球に危機が訪れる
・スネオのラジコンロボット・ミクロスが名脇役を果たす。
・しずかちゃんが大活躍(実質的に、しずかちゃんが地球を救う)
・ゲストキャラクターのリルルが敵役という異例の設定ながら、このリルルの心情の動きが魅力的
そういったストーリー以上に特徴的なのが、そのテーマ設定。

作中に現れる、「ロボットたちの社会でロボットは平等と言う考え方が広まり、奴隷制度は廃止され、代わりの労働力として人間を奴隷にしようとしている」という鉄人兵団側の思想は、SFで頻出のロボットによる人間への逆支配というテーマだけでなく、宗教への盲信、人間の奴隷制の歴史への暗な批判が込められている。実際、しずかがリルルからメカトピアの歴史を聞かされた際「まるで人間の歴史と一緒」と揶揄するシーンがあった。

確かに、子どもでは理解しにくい、という意味では、非常に「大人向け」の映画なのだ。
しかし、問題は、その壮大なテーマを作品内で処理できているように思えないこと。
クライマックスで、鉄人兵団は大挙して地球を襲うのに対し、ドラえもんのび太ジャイアン、スネオの4人で迎え撃つもののジリ貧状態になる。そこで、別行動をしていたしずかちゃんの働きによって、地球は救われるのだが、その収拾のつけ方は、ものすごい大ネタ。やったのが巨匠・藤子不二雄でなければ、ケチョンケチョンにけなされていたかもしれない、というくらいの大ネタ。
前提となる知識だが、メカトピアは、鉄人兵団の母星で、3万年前に、遠い惑星の人間に嫌気がさした科学者(ロボットたちには「神様」と呼ばれる)がつくった、知性を持つロボット(アムとイム)から建国・発展したもの。
そこで、しずかちゃん(+ミクロス)のアイデアは、「タイムマシンで3万年前に行き、メカトピアの神様(科学者)を説得して、ロボットたちの進化の過程を変えさせる」というもの。具体的には、良心回路*1を植えつけることで、「人間を奴隷化しようとするようなロボット達」自体が存在しないことにする、という、とてつもない話。
まず、こういった危機回避のやり方はオールマイティすぎる、という点が問題だが、今回、テーマ設定がテーマ設定だけに根が深い。Wikipediaに書かれていた通り、この映画における、鉄人兵団の描かれ方は、宗教への妄信や、文明発展の過程で「奴隷」を求める、人間の弱い部分が強調されたものとなっている。言うまでも無く、鉄人兵団の「悪」は、人間の「悪」なのだ。
しずかちゃんの取った策は、映画の中ではハッピーエンドにつながるかもしれないが、現実の人間社会の中では、解決策になりえない。また、深読みすれば、遺伝子操作的な対策を連想させる、という意味では、逆に問題が大きい。
そこは、大風呂敷を広げた割には、ちゃぶ台返しで幕引き、というような気持ちの悪さを感じてしまった。
子どもの映画に何をそこまで、と言うかもしれないが、クレヨンしんちゃんの「オトナ帝国」のように、テーマ設定も絶妙なら、収拾のつけ方も絶妙な作品、というのがあるので、やはり期待してしまう。
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とはいえ、冒頭のシーンは非常によくできている。
ロボットを組み立てたのび太に誘われて、鏡面世界でロボットを操縦することになったしずかちゃん。偶然押したボタンによって、ビーム砲でビルが破壊されるのを見て、このロボットが「玩具」の類ではなく、「兵器」であることを知ることになる。
普通、ロボットからはミサイルなりロケットパンチなりが出ることは、誰もが予測するわけなので、兵器であることの怖さを感じさせるためには「ひとひねり」がないといけない。その「ひとひねり」が、「誰もいない鏡面世界で、しずかちゃんの押したボタンによって、高層ビルが崩れ落ちること」になっている。ここで、鏡面世界という設定が生きてくるし、押したのがしずかちゃんというのもポイント。
このシーンの「怖さ」は、結局、全編に渡って、他のドラえもん映画には無い緊張感を与えていると思う。
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なお、ロボットで襲われそうなしずかちゃんを、のび太が助けて、二人が抱き合うシーンがあるのだが、ようたは、そのシーンを見てかなり恥ずかしがっていた。特に、そういう「教育」はしていないのだが、いつの間に・・・?

*1:良心回路はキカイダーか?そんな名前のもの。