Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

読めば自らを振り返ってしまう傑作漫画・久保ミツロウ『モテキ』

モテキ (1) (イブニングKC)

モテキ (1) (イブニングKC)

モテキ 2 (イブニングKC)

モテキ 2 (イブニングKC)

2巻になって、面白さが爆発しました。
この漫画は、主に恋愛をテーマにしながら、青春時代を終えた、いわばアフターハチクロ年代(20代後半〜)の男女に、行動を起こすようにけしかける名作です。
登場人物に起こったことを、自分に重ねて人生を振り返ってしまう、いわば自己啓発漫画だと思います。

「運命の人」がいない恋愛漫画

第一のポイントは、主人公・藤本幸世の恋愛がテーマなのに、「好きな人」がいないことにあります。
自分が同テーマの作品に疎いのかもしれませんが、オーソドックスなパターンでは「運命の人」との出会いから物語が始まって行くのに対し、この物語では、それがありません。
「出会い」ではなく、“モテ期が来た”という「状況」からスタートした1巻では、主人公と結びつく可能性のある4人の女性が登場し*1、そのいくつかでは、「あと一歩」の展開まで行きます。
2巻では、この4人*2のうちの1人に、自分の想いを伝えるシーンがあります。

○○ちゃんのことは
“好き”かどうか
正直まだよく分からないままだ

けど
気になってる
ずっと

こういう言い方で想いを相手に直接伝えるケースは、あまり無いかもしれませんが、「絶対にこの人が好き」という人物が登場するのは、いわば漫画みたいなシチュエーションであって、それを待っていても、何も前に進みません。こういった、多くの人が「非モテ」をこじらせる主要な原因である「運命の人」なんて、本当はいない、ということを前提にしている、この漫画は、とてもリアルだと思います。
だからこそ、キャラクターたちの言葉を、読者は真摯に受け止めてしまうのです。

男性側からも女性側からも語られる「モテ」(ここから完全にネタばれ)

これ以降はもろにネタばれになりますが、2巻では、4人のうちの1人、撮影助手の仕事をしているいつかちゃんというキャラに焦点があたります。
物語は、いつかちゃん史で重要な位置を占める、二人の人間との関係について語られ、「清算」するシーンがクライマックスで、そのサポート役を藤本がすることになります。

  • いつかちゃんがずっと好きだった島田(藤本の中高時代からの友人)
  • 藤本そっくりの風貌の40代でありながら、実は鬼畜の墨田先輩

この部分は、圧巻です。
インタビューでは、「寝取られ」という括り方をしていますが、自分が好きな女性を弄んだ相手と直接対面するという辛いシーンが出てきます。
例えば、古谷実の『シガテラ』では、主人公の萩野君がつきあっている彼女の昔の相手を思い浮かべて悶々とするシーンが出てきますが、あくまで主人公の妄想の中です。嫌なシチュエーションですが、妄想であるがゆえに、読者はスルーできます。
モテキ』では、その相手と対面しているという事実に加えて、過去の出来事が女性キャラクターの口から語られるだけでなく、作者も女性である、ということで、全くスルーできなくなります。性別は問わず、読者は、いつかちゃんの歴史と向き合うことになります。
ただ、ここで本当に重要な「過去の清算」は何か、という部分で、鬼畜・墨田先輩のストーリーは前振り(というかミスリーディング)でしかありませんでした。いつかちゃんを縛っていたのは、ずっと好きだった島田の方だったのです。

決着(ケリ)つけんのは俺じゃない
いつかちゃん自身だろーが
このタコ野郎!!
俺なんかが言える立場じゃないが・・・
いつまで流されては逃げてるつもりなんだよ

いつかちゃんを説得しつつ、自分を鼓舞する、この一連のシーンは2巻のクライマックスです。
女性側の視点で「モテ」をめぐる葛藤が、掘り起こされるのが、この作品の重要なポイントだと思います。
ちなみに、このあと、藤本幸世と墨田先輩の仲が続く、というのは、何か微妙な感じもしますが、こういう、墨田先輩みたいなタイプの人は確かに実在するので、この流れもむしろリアルなんだろうなと感じます。

読みやすいバランス

真面目な部分も多々ありつつも、漫画としての魅力が存分に発揮されている理由は、作品全体のバランスの良さがあると思います。白黒バランスなどの絵的な部分もありますが、物語の運び方やキャラクターの配置などが絶妙だと思います。
特に、2巻に入っていいなあと思ったのは、4人の女性キャラの一人である林田尚子が、基本的に藤本の選択肢を外れ、助言を与える導師役*3となったことです。1巻で、本人の行動に突っ込みを入れていたのは、中学生時代の藤本や激太り時代の藤本だったのですが、これは、過剰な感じがしていました。辛いときに導いてくれる固定キャラが出来たことで、ごちゃごちゃせずに見通しが良くなったと思います。
他には、いつかちゃんのエピソードを続けずに、すぐに、土井亜紀の話に移行した(これも林田の助けがあってこそなのですが)のも、話が間延びせずに、よかったと思います。
コメディー部分でよく出てくるパロディネタや音楽ネタも、過剰になり過ぎずに、上手く興味を引きつつも、分からなければスルーできるようになっており読者に優しいです。とりあえず、ゴイステはYoutubeで聴いておきました。



そのほか、女性キャラクターが可愛いとか、あとがき漫画が面白いとか、数え出したら切りがありませんが、ここ最近読んだ漫画の中ではダントツです。インタビューでは、4〜5巻で終わると言っていますが、そのくらいで見事に終わらせることができれば、大きな賞とか取るのではないでしょうか。


試し読みができるみたいです⇒http://kc.kodansha.co.jp/product/top.php/1234605998

*1:こう書くとギャルゲー・エロゲー風ではあります

*2:女性キャラが、6人、7人と増えて行く漫画なのかと危惧もしましたが、そんなことはありませんでした。

*3:Bバージン』でいう「ヒデさん」。『アイデン&ティティ』の「ディラン」