- 作者: 小出裕章,足立明
- 出版社/メーカー: かもがわ出版
- 発売日: 1997/11
- メディア: 単行本
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この本は共著になっているが、あとがきを読むと、小出氏の主張を、医学博士の足立明が整理して執筆というようなかたちになるようだ。そういう経緯もあるのか、原子力発電の基本的な原理から一通りを、かなり分かりやすい言葉で説明してくれる本だった。ただし、放射性廃棄物を「死の灰」と呼ぶなど、中立性に欠ける表現がいくつかあったように思う。
また、この本で説明されるような基本事項と、福島第一原発の事故についての読み解き方については、Newtonの6月号が非常に分かりやすかった。
Newton (ニュートン) 2011年 06月号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: ニュートンプレス
- 発売日: 2011/04/26
- メディア: 雑誌
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原子力とは共存できない理由
本書の内容について簡単にまとめる。
化石燃料にとってかわる「夢のエネルギー」として、1950年代〜60年代に注目を浴びた原子力。
その流れに乗り、原子力の開発を志して、1968年に大学に進学した小出氏は、それが幻想に過ぎないことを知った。
何故、幻想に過ぎないと考えたのか。
まずは、エネルギーとして見たときの原子力の魅力が無い、ということ(第一章)
- ウランは石油よりも不足している
- ウランは発電にしか利用できない
- 発電コストが安価ではない(見込まれていない廃棄物管理の費用が実際には多大)
さらに、原子力発電そのものが、あまり効率的ではないことを挙げる。(第二章)
- 原料となるウラン濃縮の過程で多大なエネルギーを使用する点で非常に非効率
- そもそも最初の原子炉は原爆用のプルトニウム生成のためにつくられており、発電を目的としていない。(マンハッタン計画)
- 核分裂反応の制御は難しく、原子炉自体を過酷な環境下に置かざるをえないため、事故が起きやすい
次に、他に無い原子力発電の特徴である核燃料リサイクルを行うための高速増殖炉*1の問題点についても挙げられる。(第三章)
- さらに制御が難しいため、一般の原子炉(軽水炉など)よりも暴走しやすい
- 高速増殖炉で生み出したプルトニウムは、そのまま高速増殖炉で燃料として用いることはできず、再処理が必要となる。
- 再処理工場では、使用済み燃料を集積することになり、放射能リスクが高まる。
- 現時点では、再処理は本格化していないため、海外に委託しているが、安全面でも費用面でも問題がある。
- また、一般の原子炉(軽水炉など)でプルトニウムを利用しようとするプルサーマルは、理想のひとつであるリサイクルの要素も無くなり、危険性と管理の難しさが増すだけのもの。
何故、「幻想」であることが明確な原子力に、ここまで進められているのかについては4章の節のタイトルで述べられているよう、以下のようにあげられている。
- 1.「目先の儲け」と「国威」とが推進の理由
- 2.軍事利用と「管理社会」
- 3.アジアに進出する原発産業
5章では、「原子力に依存せずにすむ社会を」ということで、ローマクラブ『成長の限界』なども引きながら、エネルギー消費を減らす社会を目指すべきとし、省エネ、合理的利用を推し進めるしか道はない、としている。代替エネルギーについても一通り検証しながら、その利用が難しいことを認めている。
原子力の「安全管理」という矛盾
原子力の「安全管理」という考え方自体に矛盾がある、との指摘には、非常に強く納得した。
すなわち、重大事故が起き、施設の制御、管理が最も必要になるときに、作業員の安全避難のために、誰も制御、管理を行うことができないという点である。
これは、1997年3月11日に起こった東海再処理工場の事故でも起きたことだし、今現在福島で起きていることも高い放射線が作業を妨げている。また、作業時間が長く取れないために、被曝の安全基準を上げる等という異常な事態が生じている。*2
震災前は、原子力発電は「容認」という考え方だった自分も、今回の事故をきっかけに「将来的には全廃」という考えに傾いている。いや、福島第一原発の近隣住民で今も避難を強いられている方々(それだけでなく、現首相に、10年、20年は住めないと言われた人たち)たちのことを思えば、原発推進などとは、とても言えないし、極端な主張とは思いながらも「全ての原発を停止」(震災後の小出氏の意見)という声も理解できる。
とはいえ、現在の「便利」な生活は、電気の恩恵に支えられていることを考えると、原子力と共存できるか?という問いかけへの妥協点をどこにするのかについて、やはり自らが確信できる答えを見つけて行きたいと思っている。