Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

小説のようで小説ではない〜せきしろ『不戦勝』

不戦勝

不戦勝

本を選ぶパターンはいくつかあって、不意打ち的なレコメンド文章が心の隙間に入り、即座にweb経由で図書館で予約、というのが、最近多いのですが、『不戦勝』を読んだきっかけは、この文章です。

「不戦勝」...なんてお得な響き...「不戦勝」...妄想界の奇才、せきしろの処女小説。帯の文句に偽りなし。「未曾有の箱庭青春小説」...「未曾有」と「箱庭」が同居するなんて、これこそ「未曾有」なんじゃないか!? 肝心の中身がまた前代未聞。「ボールを集めて願いを叶えよう!」という壮大なもの。しかも「7つ」。どうだろう...この“今まで見たことも聞いたこともない”感じ。

ピース又吉と自由律俳句本を出している人、ということで著者に興味を持っていたので、イロモノに弱い自分は、誘惑に抗えずにポチっと予約したのでした。


ただ、結論から言うと、イマイチ。
実際に具体的な作品を指しているわけではありませんが、お笑い芸人が作った小ネタ満載の映画を見せられた感じです。
文章は下手ではありません。一つ一つのネタも面白く読めます。しかし、小説全体としての盛り上がりに欠けるし、実際、わざと普通の小説を避けた感じの、投げっ放しな終わり方も、結局、全体のまとまりを崩しています。
『不戦勝』と比べると、あれほど文句を書き綴った『KAGEROU』の方が、よほど小説のかたちを成していました。
何が原因なのかは、すっぱりと言い切れない部分がありますが、

  • 主人公や登場人物が、作品を通じて同一人物という感じがしない。場面場面で、別の人間であるように思える。

というあたりがポイントなのかもしれません。
基本的に、最初から最後まで登場するのは主人公のみですが、少なくとも愛すべき主人公ではありません。内面描写もあるのですが、クール過ぎて共感できないのかもしれません。
通常の小説と異なる、という思いを抱かせただけでも、作者の試みは成功しているのかもしれませんが、やや釈然としない想いが残りました。少なくとも『KAGEROU』のときのように、応援してあげよう、とは思えない、そんな気分です。