Yondaful Days!

好きな本や映画・音楽についての感想を綴ったブログです。

紫織さんのいない頃の速水真澄の快進撃〜美内すずえ『ガラスの仮面』13

ガラスの仮面 (第13巻) (白泉社文庫)

ガラスの仮面 (第13巻) (白泉社文庫)

丸ごとシェイクスピアの「真夏の夜の夢」の話が入ったこの巻は、ガラスの仮面の楽しさがいっぱいに詰まっています。

このままなんにもしないでいるの…って
なんだか…
死んじゃいそうなの…
生きていたいの…
お芝居しているときだけは生きているって気がするから…!

北島マヤが「つきかげ+一角獣」(青木麗)に出演をお願いするときの言葉です。
ここまで一つのことに懸けることができるマヤを、読む側は可哀想と思いながらも、やはり羨ましがって見てしまいます。それが北島マヤの魅力であり、華やかに見える(演劇以外のことも何でも持っている)姫川亜弓も、実は“Only one”を持っているという同じ魅力を持っているのです。


月影先生も相変わらずです。

いまにわかるわ いまにね… 心だけでは演じられない演技を あの子はこれから覚えるのよ…

梶原一騎的な特訓は、円になった6人が投げ合う3つのボールを、真ん中にいるマヤが身に触れないようにかわすというもの。正攻法で技術を得て行く亜弓さんに対して、マヤは常に亀田兄弟みたいな道を取るのは、漫画っぽくてグッときます。


そしてこの巻は、速水真澄の真骨頂。
真夏の夜の夢」をチャリティー公演にし、さまざまな広報手段で盛り上げ、野外劇場(井の頭公園)の3daysに、立ち見が出るほど人を集めることができたのは、速水真澄の御蔭。演劇の中身以外のお膳立てをする、本来の役割を心得ています。
それだけではなく、その後すぐに、「つきかげ+一角獣」と、マヤを引き離し、その目を「ふたりの王女」のオーディションに向かわせるという、憎まれ役を買いながらストーリーを正しい方に導いていく仕掛けは流石です。
後者の役回りは、月影先生でも良かったのですが、これこそが速水真澄の「愛」なんですよね。


自分が大好きな桜小路君のネクラ体質もいつも以上に冴えわたります。
マヤと別れた里美茂を叱責しておきながら、舞ちゃんを従えて、マヤとのことは「いい友人でした」と言い切る桜小路君。「真夏の夜の夢」を見に行きながら、マヤには話しかけず、木の陰から、募金箱を持ったマヤを眺める桜小路君。
“暗い炎”全開で、他の漫画なら悪魔に魂を売ったりしてひと騒動起こすタイプです。


「ふたりの王女」のオーディションを受けに、日帝劇場に向かうマヤをバックから撮ったラストの一コマは、これからのマヤの快進撃を予感させます。