Yondaful Days!

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イラン人の登場に拍手〜奥田英朗『空中ブランコ』

空中ブランコ (文春文庫)

空中ブランコ (文春文庫)

東野圭吾幻夜』や伊坂幸太郎『チルドレン』を破って第131回直木賞を受賞した作品。
このシリーズは漫画みたいに読みやすいので、細切れでも何かの度につい手に取ってしまい速攻で読破。
今回も5つの話が入った短編集で、こんな感じのパターン通りの展開を見せる。

  1. 精神的な部分に起因する症状(不眠、尖端恐怖症、強迫神経症イップス、嘔吐症)を持った患者が伊良部の病院を訪れる
  2. とりあえず注射
  3. 伊良部がいろんなところに首を突っ込み出す
  4. カウンセリングはしない
  5. 伊良部の「逆療法」のせいで状況が悪化
  6. 最終的に何とかなる

前作『イン・ザ・プール』に続き2巻目ということもあり、もしかしたら、伊良部一郎の過去など、登場人物の突っ込んだところまで掘り下げがあるかも?とも期待したが、最低限に終わったことで、却って続刊への期待が膨らんだ。
少しだけ主要登場人物について掘り下げたのは以下。

  • 伊良部の(変人ぶりを補強する)学生時代のエピソードが明かされる:「義父のヅラ」
  • 常に無愛想なボディコン看護師・マユミが初めて「人間っぽさ」を見せる:「女流作家」
  • これまで伊良部の話の中にしか登場しなかったイラン人が、ついに本編に登場する:「ハリネズミ


最後のイラン人(2つある台詞の一つが「先生、困ラセル。アラーノ神ガ許サナイ」笑)が、その最たるものだが、このシリーズの良い所は、ヤクザや作家、プロ野球選手などを、期待通りにデフォルメして描いてあること。伊良部の口癖の「上野の外国人(イラン人)に頼めば何でもやってくれる」なんかは本当に酷すぎる。
結局、ステレオタイプで面白いところは雑なままで行って、患者の立ち直りシーンを少しだけ丁寧に描くというメリハリをつけた人物描写(というか90%くらい雑?)がいいのだと思う。


今回の読みどころの一つは、運動神経ゼロのように見える伊良部が、一部のスポーツに若干のセンスを見せるところ。(「空中ブランコ」「ホットコーナー」)
一冊目の一番始め「インザプール」でもそうだったが、巨体が動くとそれだけで絵になる!

宙に舞う伊良部は、海面に出現したクジラに似ていた。ああそうかと公平は納得がいった。これはホエール・ウォッチングと同じなのだ。だから団員がみんな見物に来るのだ。P45

続刊もあるということで、すぐにでも読みたいくらいだ。