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科学って楽しい!!〜吉村仁・石森愛彦『素数ゼミの謎』

素数ゼミの謎

素数ゼミの謎

こういう本に出会える、そして、興味を持った本は読み切ることができるのが児童書コーナーの魅力。
書店は新しい本に出会うのには適しているけれど、分野別に気になる本を探すのは、やっぱり図書館。
そのことに気づいてからは、子どものために、というよりは自分のために、児童書コーナーで入念に本を物色しているのだった。


さて素数ゼミ。
日本で見る通常のセミのライフサイクルはこうだ。

  • 木に産みつけられた卵から孵化し、脱皮した1齢幼虫はすぐに地面に落下。
  • 幼虫は土の中で脱皮を重ね、6〜7年をかけて成長する。
  • 土から出て木に登り羽化して成虫になったセミはパートナーを探す。(そのためにオスは鳴く)
  • 地上に出て2週間ほどの間で、交尾を終えてオスは力尽き死ぬ。メスも産卵後死んでしまう。

毎年出てくる日本のセミと違って、アメリカで見られる素数ゼミ(13年ゼミ、17年ゼミ)は、13年または17年おきに大発生する。また、かなり狭いエリアに集中して大発生し、ほとんど遠くには飛ばないのも日本のセミと異なる。
冒頭で掲げられた「素数ゼミの謎」とは以下の3つの謎である。

  1. なぜこんなに長年かけて成虫になるのか?
  2. なぜこんなにいっぺんに同じ場所で大発生するのか?
  3. なぜ13年と17年なのか?

これらの謎が、非常にスッキリしたかたちで解き明かされるこの本は、一種の科学ミステリで、誰にとっても読みやすい。ベストは小学校高学年あたりだと思うが、科学全般に対する興味を持たせ、そして「進化」についての基本的な考え方を知るのにかなりオススメの本といえる。勿論大人にもオススメできる良書。


そして、文章以上に素晴らしいのが石森愛彦(よしひこ)氏のイラスト。Amazonの著者略歴 (「BOOK著者紹介情報」)を見ても、この本のことが記されている。

1958年東京都生まれ。イラストレーター。桑沢デザイン研究所グラフィックデザイン研究科卒。数理生物学者の吉村仁と組み、アメリカの周期ゼミの不思議な生態の謎を数理生物学の大胆な仮説で解いていく『素数ゼミの謎』(2005年)の絵で高い評価をうけた

かなり大胆に見開きページを使って氷河時代や恐竜時代のイメージ画を描いたり、文章をさらにわかりやすく噛み砕いた図入りのイラストを載せたり、と、この本の分かりやすさへの貢献ぶりは相当のもの。図書館で借りてしまったが、このイラストのために、この本を持っておきたいと思えるほど。子供向けの科学本はかくあるべきというお手本であり、逆に、大人向けでも、こういったイラストがふんだんに使われた本があると楽しいと思う。
石橋愛彦関連の本はほかにもいくつかあるみたいなので、チェックしておこう。


さて、3つの謎は、ミステリでいうところの犯人当てになるので、ネタバレになってしまうが、備忘録として回答をまとめてみた。分かりやすさは本書の1/10くらいになっていると思うので、以下を読んだ人も、本を手にとって「分かりやすさ」を堪能してほしい。

  1. 300万年ほど前の氷河時代(第四期更新世)。氷河に覆われた北米大陸で、植物の根から養分を吸うセミの成長のスピードはどんどん遅くなって行き、長い期間を経ないと成虫になれなくなった。*1
  2. 氷河によって絶滅する動物が多数いたものの、氷河の影響をほとんど受けなかったいくつかの飛び地(レフュージア)で素数ゼミの祖先が生き残る。この際、成虫して「婚活」〜「出産」して寿命を迎えるのがたったの2週間ということもあり、(1)みんなと同じタイミング(周期)で地上に出る(2)地上に出たらなるべくレフュージアから離れずになるべく近くにとどまるというルールを守らないと子孫を残すことができなくなった。
  3. パートナーを見つけても、ほかの種類の周期ゼミ(12年ゼミや15年ゼミなど)と交雑すると、その子どもは周期がずれてしまい、その子孫を残せない。すると公倍数の多いセミは交雑リスクが上がり、素数ゼミと比べて子孫が減る。一方で、地中での生存リスクもあり、19年以上地中にいることは困難。

結局、氷河時代をきっかけに出来たルールに忠実に今もアメリカ北部で生息しているのが17年ゼミ。南部で生息しているのが13年ゼミとのこと。
仮説を検証していく過程を楽しみながら数学・生物・地学についての知識を身に付けていける。やっぱりこれはいい本だ。

*1:ヨーロッパやアメリカの多くの場所が氷河に覆われたこの時代、日本は氷河の痕跡がないとのこと。以下の資料のP3など→http://www.kubota.co.jp/urban/pdf/11/pdf/11_2_1.pdf