- 作者: 那須正幹,田代卓
- 出版社/メーカー: 理論社
- 発売日: 1998/01
- メディア: 文庫
- この商品を含むブログ (1件) を見る
五編からなるこの本は、それぞれの話はバラバラなテーマを扱っていて、あまりまとまりがないようにも見えますが、巻末の佐藤宗子さんの解説を読むと、全体として10歳という年齢での成長を上手く描いた作品であることに気づかされます。
考えてみれば、小学校四年生というのは、ちょうどものごとにこれまでと違った側面を見出すときかもしれません。身近な人の意外な横顔、関心を持つようになった社会の裏面などに驚くこともあるでしょう。また、自分自身がどんな人間か、どのようなものの見方をするかを、折にふれて自覚させられる、といったこともあるでしょう。
解説が素晴らしすぎて、付け加えることもない中、あえて自分の言葉で書けば、5編の内容は以下の通り。
- 年齢について目を向けることで、自分と他人の感じ方の違いを思う第一話。
- 親友の突然の行動から、異性との付き合い方について考える第二話。
- あまり話したことが無かった友だちの別の一面を知り、自分の死について考える第三話。
- 理不尽な暴力事件から、友情と自尊心を考え、なりたい自分を思う第四話。
- 淡い恋心を抱いていた先生の突然の退職とその真相に「いやらしさ」と寂しさを感じる第五話。
中でも、小学四年生の会話の中で「離婚」だとか「不倫」だとかいう言葉が出てくる第五話は、作品の中で扱わなくても良いテーマではないかと思いつつも、このくらいが、一番、小学四年生をリアルに表しているテーマなのかもしれないと思い直しました。
十歳という年齢で生まれてくる、いろいろな感情について佐藤宗子さんは次のように書いています。
それは、ちょうど色鉛筆やクレパスを、六色セットから十二色セットへ、さらに二十四色セットへと使いかえていくときのようです。赤、青、黄といったはっきりとわかりやすい色のみから、どんどんと、中間の色をふやしつつ、世界の色相が眼にはいるようになります。あるいは、細い色糸をとりどりに集め、よりあわせて太くしていくように、ものごとを見るときの視線が、いわば太く、さまざまな色を含んだものになっていく、といったほうがよいでしょうか。
よう太は現在8歳で、すぐにタモちゃんと同い年になることを思うと、過ちは正しながらも、そういった変化を応援していくことが親としての使命なのだろうなと感じます。
作品自体は、取り立てて面白いと思うことはなく、スラッと読めるのですが、素晴らしすぎる解説と合わせて読むと、那須正幹作品の良さが浮き出てくる物語でした。Amazonでは書影がありませんが、田代卓さんのはっきりしたイラストが表紙の児童用文庫の本です。→フォア文庫のHP
なお、解説で、タイトルだけ知っていた『君たちはどう生きるか』が小説であることを知りました。これも児童向けに作られた本とのことですが読んでおきたい本です。
参考(過去日記)
- 大絶賛!『ぼくらの地図旅行』(2009年9月)
- 水嶋ヒロに教えたい巧みなタイトル〜那須正幹『ぼくらは海へ』(2011年2月)
- 世界の終わりと懐かしい日々〜那須正幹『The End of the World』(2011年2月)