イカロス君 見つかる
はやぶさとアニメ宇宙兄弟に多少興味がある程度で、宇宙全般の話題について、それほど気にしていなかった自分ですが、9/10にtwitter上で目にしたニュースに「おお!」と盛り上がりました。
というのも、ちょうど9/8に紀伊国屋新宿南店で行われたビブリオバトル*1にて、以下の本を紹介され、購入したばかりだったからです。
- 作者: 宇宙航空研究開発機構
- 出版社/メーカー: 日経印刷
- 発売日: 2010/12
- メディア: 単行本
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よくよく調べてみると、今回の「発見」についえては、はやぶさとは異なり、予定通りのもののようです(以下の説明が分かりやすい)が、ともあれ、無事が分かって何よりです。
予定されたミッションをすべて完了し、
まだ余力があったので新たなミッションを加えたがそれも完了。
その後、設計外の帆を超低速回転させたり逆回転させたり高速回転させる実験を開始。
途中で姿勢を制御する推進剤がなくなる(事前に分かっていた)
角度が変わって発電や通信できなくなるので、事前準備(プログラムの書き換えなど)をして冬眠実験を開始。
計算どおり電源が落ちて冬眠に入り、冬眠から覚める時間を見計らって検索開始。
今回、見つかった。(計算で見つかる可能性が高いと思われた時期)
今後は、冬眠中に姿勢や加速がどう変化したか調査。
イカロス君の大航海
探査機の燃費を抑えるため凧のような形状で太陽光エネルギーによって進む「宇宙ヨット」イカロス君。
そんなイカロス君の活躍についてまとめた『イカロス君の大航海』のメインストーリーは、基本的にはJAXAの公式ブログでも読むことができます。
このページの物語を綺麗にまとめたのが小冊子になりますが、見どころであるDCAM2君とDCAM1ちゃんとのお別れのシーンは、動画になっている分だけ、HPの方が感動するかもしれません。(DCAM1君とDCAM2ちゃんはイカロス君を撮影する役目がありますが、撮影のためにはイカロス君と離れる必要があり、撮影によって電池を使い果たすと、イカロス君のもとに戻ることなく、動けなくなり、そのまま「眠って」しまうのです)
擬人化というプロモーション
JAXAの中の人の趣味なのか、予算獲得のためには、国民の理解を得ることが大事という使命感のもとで戦略的に行っているのかは分かりませんが、このような擬人化はJAXA公式のもので、DCAM1、DCAM2のtwitterアカウントまで取ってあるという凝りようには驚きます。*2
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こういった擬人化が成功しているのは、ひとえに、中の人たち(JAXAのチーム)の熱意があってこそ。客観的な事象や結果のみで評価されることの多い科学最前線の人たちの熱い思いのほとばしりがイカロス君に、あかつき君に、はやぶさ兄さんに吹き込まれているから、じゃれ合っているように見える擬人化キャラ同士のやり取りでも、ときに胸を打つ名シーンが出てくるのだと思います。
そういう意味では、流行っているからという理由のみで作られた擬人化キャラやゆるキャラは、正に「仏作って魂入れず」という代物で、実際にどんどん淘汰されていっているのでしょう。
「イカロス君のうた」とか、やり過ぎな感じもしないでもありませんが、どんどん突っ走ってほしいです。
オリジナル探査機をつくろう!
つい先日、お台場の科学未来館に行ってきたのですが、イカロスの展示はなかったものの、JAXAのいくつかの取り組みを知ったあとで見る探査機関連の展示は、なかなか胸を熱くさせるものがありました。*3
特に、自らミッションを選択し、目的に適した観測ユニットを組み合わせ、ユニット選択がどの程度合っていたかを採点してもらう「オリジナル探査機をつくろう!」には熱中しました。
特に、探査機に名前をつけることができるのは最高ですね。
よう太につけさせたら、はじめ「あかばね」という案*4が出たのですが、地球どころか東京都内からも出られないネーミングなので却下すると、「はやチキ」*5というファストフードっぽい名前が出てきたので、これも却下。最終的に、小学生の目標っぽいネーミングに落ち着きました。なお、この彗星探査機は、太陽系の起源を調べるために、彗星から噴出されるちりなどを調べます。
こういう体験を重ねてみると、科学技術についての広報活動はかなり重要であることが分かります。事業仕分けが猛威を振るっていた頃は、無駄遣いの槍玉にあがることが多かった広報ですが、潜在的なサポーターを増やし予算を取りやすくするためには、JAXAにとっても命綱なのでしょう。(同様に電力関係の広報活動も重要です。しかし、「何かを隠すための広報」に見えた途端にサポーターはアンチに反転する。それが止まらないのが現状という気がします。)
イカロスという挑戦
さて、この小冊子で、一番胸を熱くさせる部分は、DCAM1やDCAM2との別れのシーンではなく、小冊子の最後にあります。
そもそも、何故イカロスという名前なのでしょうか。*6
ギリシャ神話で、ろうで鳥の羽根を固めてつくった翼で空を飛んだイカロスは、最後には太陽に近づきすぎて、ろうが溶けて羽根が壊れて墜落してしまうのです。
通常なら不運な名前と取られかねないこのネーミングは、たとえ失敗に終わったとしても困難な技術に挑戦するという決意が込められていると言います。寄せられた、IKAROSチームのメンバーからのメッセージは、強く心に残りました。
- 挑戦は努力を必要とし、時には失敗を伴うかもしれませんが、夢に向かって挑戦することは、ヒトが生きる原動力であり、社会を豊かにできると信じています。
- 想像力こそが創造を生み、明るい未来に向かって航海する原動力となるのです。
- 成功の喜びも失敗の経験も、これからの人生の糧になります。
- 私たちが、イカロスに託したのは、ごくあたりまえの技術で作るふつうの人工衛星などの世界から脱出しようということです。その挑戦でこわれるほど高く太陽まで近づくほど飛び過ぎたなら、それは本望という夢なのです。(川口淳一郎)
今後のイカロス君の動向も気にしながら、イカロス+はやぶさ(宇宙ヨットとイオンエンジンの併用)という技術で挑むJAXAの木星探査プロジェクトを応援したいです。
*2:ただし、擬人化は「嘘」なので、どの程度まで虚実織り交ぜるのかは担当者のセンスなのでしょう。
*3:かぐやと並んで展示のあった「ルナーA」(日本初の本格的な月探査機。「ペネトレータ」と呼ばれる槍状の観測装置を投下し、地中の約2メートル前後の深さまで潜り込ませるのが特徴)は計画中止。開発に取り組んでいる方の説明もありました。当然ながらそういうこともあるのですね。
*4:イカロス君を読ませたあとだったので、話にも登場する金星探査機「あかつき」からの連想だったようだ。
*6:なおアルファベット表記の意味は、IKAROS = Interplanetary Kite-craft Accelerated by Radiation Of the Sun